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橋爪 紳也・大阪市立大学大学院助教授

2005.11.01
「企業のあり方・再考察──社会/地域への価値をどう実現するか」

橋爪 紳也・大阪市立大学大学院助教授

かない かずより
大阪大学大学院経済学研究科教授(経営戦略論、企業家活動)、博士(経済学)。
1949年北海道生まれ。武蔵大学経済学部卒、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。滋賀大学助教授、北海道大学助教授、教授を経て、2004年より現職。企業家活動、ベンチャー創造、クラスターと産業集積、経営戦略、戦略的社会性など研究。著書「企業戦略の新しい考え方」「地域の産業をどう育てるか─改革の時代の自治を問う」、共著「経営戦略―創造性と社会性の追求」「日本の産業クラスター戦略─地域における競争優位の確立」「ベンチャー企業経営論」「『非』常識の経営」、共訳「組織理論のパラダイム」「大学発ベンチャー」ほか。 


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日本は戦後、大量生産・大量供給・大量消費というパラダイムでやってきて、世界のフロントランナーになった。ところが、「失敗は成功によってつくられる」。大量生産・大量消費は実はいろんなところに負荷を与えていて、それが臨界量になったとき、公害・環境問題、バブル経済とその破綻、地域コミュニティの破壊など、多くの問題が一気に噴出した。

同様に生き方とか価値観の問題も、変化の兆しが見えたのが、1994年に私が関わった産能大学総合研究所の「21世紀の組織とミドル」という調査。それによると「現在の自社の評価項目」では、経営者、人事担当者、ミドル、一般社員もみんな1位に「安定性」を挙げたが、10年後という「将来」について訊くと安定性は消え、「企業イメージ」「社会貢献」「働きがい」が上位を占めた。これは一体、どういうことなのか。

その少し前、1990年は「メセナ元年」と言われ、「1%クラブ」といった社会貢献活動が始まったが、企業は儲ける存在だと思う私には違和感があった。私はメセナ・フィランソロピーは、否定はしないが好きじゃない。体質は違うのに綺麗に見せようとしている。体質に根ざしてないから、儲かるときはやるが儲からないとやらない。

でもこういう調査データが出て、潜在的にみんな社会貢献志向があるようだ、と。これまでは一律の価値にみんな乗ってきたが、どうもそうでない状況が生まれている。例えば社員は企業の一員である一方で社会的存在でもある。住民も特に企業城下町など、企業がなくなったら困るけど、企業のやり方に全て賛成もできない。あちこちでアンビバレントな問題が現れて分裂状態。私としては、企業は儲ける存在だということは譲りたくないから、このトレードオフを解消する新しい理論の構築を迫られた格好だった。

94年の調査で因子分析をしたところ、社会価値志向─企業価値志向、自律性─他律性という2軸が抽出され、企業価値志向で他律型の「組織管理型」、社会価値志向で他律型の「ソシオ・オーダー型」、企業価値志向だが自律的に動く「組織ダイナミクス型」、社会価値志向で自律的に動く「ソシオ・ダイナミクス型」という4つの企業パターンが出てきた。

例えば関西電力など公益事業はソシオ・オーダーと当時位置づけた。つまり、他律的だけど社会のミッションを受け継ぐ企業。そして、社内ベンチャーは組織ダイナミクス。当時最も多かったのは組織管理型で、いわば「企業カプセル」、地域と隔絶された企業内でのコミュニティをつくっているイメージだったのに、調査結果では、カプセルが溶け出して社会との関係性を模索しているイメージ。地域貢献や文化貢献を自律的に行う、21世紀のソシオ・ダイナミクス型の企業構造とは、どういうものか。

その理論構築をしようと出したのが、ソシオ・ダイナミクスの4つのキーワード、「戦略的社会性」「社際企業家」「ネットワーク」「社会価値」だ。

企業は何らかの価値をつくり出している存在だが、価値とは株主価値だけではない。株主、従業員、地域社会、マーケットという多様なステークホルダーの利害のバランスをとりながら、価値創造を行い、各ステークホルダーに価値を提供する。そのバランスの取り方が、企業では戦略論。ところがアメリカの戦略論はマーケットの戦略論だけで、社会との関係性の戦略はない。それを戦略として考えようというのが「戦略的社会性」。社会貢献と利益追求というトレードオフになりがちな関係にある両者を両立させる概念として「戦略的社会性」を打ち出した。

つまり、企業は社会的な問題を自らの事業機会と捉え、それを解決して儲ければいい。もともと企業は社会的問題解決をミッションとして登場した。社是や理念を見ると、高邁な理想がある。ところが現実の行動はかなりかけ離れ、社是は飾り。ベンチャーの時は企業の価値観が企業行動に落とし込まれていたのに、次第にそれを知らない世代が増え、理念とはかけ離れ、単なる儲けだけの慣性で自走する。社会と乖離してしまい、創業の理念が失われる。これは危機的状況だ。

だから今、原点に戻るべき。それぞれの高邁な社是に戻って企業行動を見直すべきだ。企業は利益を上げないとダメだけど、その前に社会的存在。社会的な有用性があって利益が付与されているはずなのに、社会との関係性が切れている。原点に戻り、企業革新によって社会的問題を解決して、社会に価値を提供する。それが私の考える「戦略的社会性」だ。

ただ、企業を取り巻く環境が複雑化するなか、社会的問題も一企業だけでの解決は難しく、「ネットワーク」を組み、課題を共有して進めていくのが望ましい。その担い手が「社際企業家」──社の際、マージナルにいて社会とのネットワークを持つミドルだ。ミドルとは、ピラミッドのミドルではない。会社と社会の「中間」である社の際にいるという意味でのミドル。社会との接点にいて、社会の問題を見つけ、自社で解決できる問題を事業機会に結びつけるのが社際企業家。そして事業として戦略的に資源を投入することで、儲けると同時に社会的問題を解決する。そうやって企業の「社会価値」を上げていくことが、21世紀のソシオ・ダイナミクス企業の行動原理であり、あり方じゃないか。

その企業モデルとしては、ボディショップやパソナ、また私自身、事業創造に関わった、ソシオ・ダイナミクス型ベンチャー企業「ハウジングオペレーション」(HOP)のケースがある。

私は91年に、北海道でクラスター理論に基づく「寒冷地特有産業の振興方策」という報告書を出し、地域の多様な人との協働でモデルづくりを行った。その1つが、住宅産業。住宅産業は、海外での乱伐と日本の林業不振、シックハウス、高齢化時代のバリアフリー、耐震性、廃材リサイクルなど、多くの社会問題に囲まれている。これは住宅産業だけでは解決しにくく、HOPを中核に多様な人と組織をネットワークし、原木確保から製材・設計・建築までの一貫協業化をはかることで解決を試みた。日本の住宅は平均25年で建て替えられているが、最低50年という森林のライフサイクルに合わせるとともに、間伐材を使って高品質な住宅を建てる。天然木だからシックハウスの心配はなく、強度確保や廃材リサイクルを可能にする建築金具も開発、高齢者だけでなくみんなに優しいユニバーサルデザイン……。社会的な問題を解決するにあたって大事なことは多様な人々やセクターを繋げる「場」づくりである。こうして、ソシオ・ダイナミクス企業を中核に、場に集まって共通のミッションを考えていくなかで、多様な社会問題を解決するモデルができた。

そしてローカルな問題はローカルで考えることが地域活性化につながる。
とりわけ地域の問題解決に、地域に根ざす電力会社の役割は大きい。自らが直接解決しなくても「場」づくりはできる。いろんな人を集めてコミュニティ創造の先頭に立ち、行政を巻き込んで実行する力とネットワークを持っている。安定供給をベースに、社会の多くの人に知恵を借りながら戦略的課題を設定し、ソシオ・オーダー以外の新たな価値をつくり提供していけばいい。

今、CSRも一つの流れだが、それを単なる流行に終わらせず、本物にするには戦略に組み込むこと。それをしないから、事業は事業、CSRはCSRとなって根づかない。私の考える「戦略的CSR経営」は、社会価値、環境価値、経済価値(株主価値・市場価値)、従業員価値の4つをトータルに上げる「ダイヤモンドモデル」。今までは一つの価値を上げるため他の価値を犠牲にしてきたが、これからはイノベーションを通じて全ての価値向上を図ることが重要だ。戦略的社会性の概念で、社会価値、環境価値、経済価値を上げ、社際企業家を認めることで、従業員価値・ESを向上。企業は従業員をもっと自由にし、彼らを企業カプセルから解放して、社会と企業の狭間で活動する自由を与え、社会的問題を知覚するセンサーとしての機能に期待する。こうすることで社際企業家、つまり一般でいわれている社会企業家への道が企業の側から拓かれる。

ワクワクドキドキできる地域、ワクワクドキドキできる仕事。社会的問題解決を自らの事業機会とし、常に新しいワクワクドキドキ感をつくり出す企業こそ、21世紀のソシオ・ダイナミクス企業だと言えるだろう。■


関連資料

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