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橋爪 紳也・大阪市立大学大学院助教授

2005.10.15
「にっぽん電化史が示唆する、未来生活の可能性」

橋爪 紳也・大阪市立大学大学院助教授

はしづめ しんや
大阪市立大学大学院文学研究科助教授
1960年大阪市生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院工学研究科修士課程修了、大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。京都精華大学助教授を経て現職。専門は都市計画史、建築史。著書「集客都市─文化の仕掛けが人を呼ぶ」「モダン都市の誕生」「祝祭の<帝国>」「大阪モダン─通天閣と新世界」「KYOTO恋愛空間」「明治の迷宮都市─東京・大阪の遊楽空間」「倶楽部と日本人」「飛行機と想像力」など。近著「にっぽん電化史」。  



私たちは「電化」されてしまっている。「電化」という概念は、通常、人力や動物の力、あるいは蒸気や瓦斯に頼ってきた動力を電気エネルギーに置き換えることを指してきた。しかし、それだけではない。電気を使うことで思いもよらなかった生活領域が拡がり、新しいライフスタイルが生まれ、価値観がどれほど変わったのか。明治から昭和にかけてのエネルギー革命、とりわけ電気による生活様式の開発は、私たちの生活全般にわたる「質」を大きく変えた。この部分も含めて「電化」と呼ぶべきだろう。

かつては「電化」という響きには希望があり、憧れをもって受けとめられていた。例えば「あかり」。今でも「電気をつける」という言い方をするように、日本人は電気といえばまず照明をイメージする。ガス灯や石油灯に比べて安全で明るいということを訴求した。電灯によって暮らしがどれだけ変わったか。あるいは「家庭電化」。薪の時代から、熱源が電気に変わる。電熱器具、電気調理器具、多種多様な家電製品が登場し、生活の「質」は大きく変わった。大正時代には既に電気の家──電気座布団、電気アイロン、洗濯機なども備えた電化住宅があり、人々は驚き、憧れた。

「農業電化」が果たした役割も大きい。農作業の機械化や温室の熱源も大きな変化だが、植物の季節や時間を感じる能力をたぶらかす電照栽培などの工夫で、新たな可能性がもたらされた。電化を動力の置き換えと捉えていると、結局はコスト競争、動力源となる他の燃料が安いと取って代わられる。しかし電照は電気にしかできないことだ。

さらに電化は「速度」という価値をもたらした。高速移動機関のシステム全体をスムーズに動かすのは制御系だ。エンジンより電気系が壊れる方が、困る。1本の線路上を複数の列車が安全に運行できるのは「制御系の電化」、鉄道信号によるものだし、航空機の夜間飛行は、航空灯台や空港での夜間照明の拡充によって可能になった。

とりわけ「質の電化」は、「楽しみ」や「文化」を生み出した。建築の歴史を考えたとき、電気によって建物や看板のありようが変わった。建物の外観演出、イルミネーションや街灯など、明るさだけでなく、美しさや演出性といった「質」に意味が見出されるようになった。夜の景色を昼間のように見せるということにとどまらず、夜には夜の光による美しさがあり、それを見せるという方向に発想の大きな転換があった。

照明技術による景観の変化は、私にとって極めて興味深いテーマだ。都市景観はもちろん自然景観も電気の光で変わる。初期の電気技術者たちの工夫のあとが面 白い。アメリカではナイアガラ瀑布などに、緑の光など自然光から遠く離れた色合いの光を、まだ明るいうちから投射し、夕方、太陽光と人工光が混ざった微妙な色になり、まわりが暗くなるに従い人工光による昼間とは全く違う神秘的な光景が現れる。電気による景観の変化を、日本ももっと研究すればいい。

かつて電気の登場は「驚き」であり、「不思議な力」、未来を予感させる革命的技術だった。この100年、電気は単に身の回りのものを電化してきたのではなく、価値観や生き様そのものを電化した。私たちはいわば「電化人間」になっている。電気がないと生きていけない。そんな身体と心を持ち合わせてしまった。

さらにいえば、今、ITという先端技術によって、私たちは再びさらに高度に「電化」されつつある。ケータイもパソコンも電気がないと動かない。ケータイを持たずに外出すると不安で仕方がない。ケータイが身体の一部になっている。リ・エレクトリファイ──100年前の技術革新・電気革命での経験に加えて、もう一度、電化されている。「再び電化された私たち」といえるだろう。

「電化」のもう一つの側面は、人間の能力を増幅すること。例えば新幹線を使えばものすごく早く遠くへ行くことができる。コンピュータネットワークで世界中の情報を集めることができる。電化は時間の概念さえ変えてしまった。昔の人から見れば私たちはみんなスーパーマンになった。これからどこまでスーパーマンになるのか? 便利になって、スーパーマンになって幸せなのだろうか? 確かに昔は、中流以上の家庭にはお手伝いさんがいた。家事は多くの人手を要する重労働。その労力を電化製品が補った。当時、電化機器は高くて贅沢品であったが、電化で幸せな暮らしを実現すると断言できた。今、途上国でならそれを言えるが、日本ではどうか。

かつて「電化」という言葉は、新しい暮らしを想起させる、未来志向の憧れとなる概念であった。しかし今はそうでもない。「オール電化」にしても、大正時代ほどの魅力的な響きはない。私たちは新しい電化概念、さらにいうと新たな電化都市、電化社会の概念を創るときに来ているのではないか。

「暮らしの質」が変わると次の可能性が見えてくる。水面 に石を投げて波紋が拡がっていくように、急速に普及していく。だから新しい可能性のフィールドを創るべき。さらなる電化によってどんな幸せな社会を実現できるのか、関連企業はより豊かな社会を創るために、「電化の未来学」を構築し、多くの人にその理想を広め、それを共有していくことが大事だと思う。

かつて日本に「電化史」の記述はなかった。歴史の語り口としては、供給者側からの物語があっただけだ。電化の「質」も大事なのに、電力会社は「量 」的な評価に終始してきた感がある。確かに電力会社は電気の「力」の会社。でも今後は、力の大きさだけの尺度でなく、電気の「質」の意味することを真剣に考える「電化会社」という自己認識も必要ではないか。そして次世代型の電化概念、新世代の電化人間像を示すべき。自由化が進むなか、電力会社は、エネルギー供給会社としてのコスト競争を超え、「電化」が拓く新しい可能性に挑戦してほしい。■


関連資料

『電化史』の周辺 関連図書 「暮らしと電気」を読み解く10冊 


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