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さえき けいし 京都大学大学院人間・環境学研究科教授

2005.10.01
「いまなぜ暮らし再考察なのか──豊かさの質と関西の可能性」

さえき けいし 京都大学大学院人間・環境学研究科教授

さえき けいし 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
       (共生文明学・現代文明論・現代社会論)
1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程修了。滋賀大学教授などを経て現職。政治、文化、宗教など幅広い見識で市場経済や大衆社会を分析、文明批評も展開。著書『成長経済の終焉─資本主義の限界と「豊かさ」の再定義』『倫理としてのナショナリズム』『人間は進歩してきたのか─現代文明論〈上〉「西欧近代」再考』『20世紀とは何だったのか─現代文明論〈下〉「西欧近代」の帰結』『国家についての考察』『現代日本のイデオロギー』『自由とは何か』『市民とは誰か』『現代日本のリベラリズム』『アメリカニズムの終焉』『欲望と資本主義』など。  


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日本社会は今、未曾有の転換を必要としている。 戦後日本の経済成長追求路線は、いくつかの条件がうまく重なったからできた。まず、日本は戦争で相当やられたが、基本的な技術力はあったので、経済復興が非常にうまくいった。加えて防衛問題はアメリカに任せたから、シビアな外交的・政治的・軍事的問題に直面せず、関心を経済成長に向けることができた。さらに高度成長は人口増加と関係する。日本は成長期に団塊の世代がいたことも、成功の条件だった。ところが今、これらの条件が全て失われた。

難しいのは、ちょうど日本がそういう状況に陥った頃、グローバル経済が現れ、アジア諸国が急速に発展。世界規模で、もう一度経済発展をめざそうという話になってきた。日本は少しステージが違うのに、アメリカとの厄介な関係もある。アメリカは、過去の遺産より未来の可能性で食べていく国だから、常に新しい豊かさを求め経済発展のフロンティアを開拓していく。その国が90年代に経済覇権を握り、アメリカ型の市場競争に日本を巻き込もうとするのが1つ厄介な問題だ。加えて資源消費大国・中国の拡大。日本は戦後、アメリカには保護され、中国にはある種の負い目を持っていて、どちらにもニュートラルでいられない。この2つの大国が経済成長路線を模索していることは、その間に挟まれている日本にとって非常に困った問題だ。

日本は今、戦後日本の成功条件を、自らの手で変えることから始めなければならない。まず、アメリカ・中国と心理的な距離を置き、日本が政治的あるいは安全保障上どういう立場を取り、どういう「国のかたち」をつくっていくかを明確にする。そういうことが、実は我々の暮らしと無関係ではない。「国のかたち」は、統治機構としての「ステイト」よりも、文化的集合体としての「ネイション」の意味で考えるものだからだ。

我々は、どういう国をつくるのか。どういうものを日本人のライフスタイルとしていくのか。人口減少社会のこれからを考えれば、日本は、大量生産・大量消費型、高度成長型の生活から、時間をゆったり使える、人間関係を大事にできる、身の回りのことを味わい直す生活へ──「美観・美意識」「ゆとり」「味わい」などをキーワードに、新たなスタイルを定義していく必要がある。

ところが現在、その了解はまだ得られていない。一方でホリエモン型の情報産業プラス金融、要するにグローバル規模で自由競争をやれば儲かるという話があり、それを支持する人・批判する人がいて、国民的議論として収束していない。しかし産業としては、グローバルマーケットで競争できる産業と、国内マーケットで安定してものを供給する国民生活密着型の産業、よりローカルな生活に密着したローカルエコノミーサービス業。3つくらいに分けて考える必要がある。

とりわけ重要なのはローカルエコノミーだ。それをどうやって充実させ、地域の中で生活と経済を結びつけていくか。今はロードサイドビジネスのように、地域と無関係な企業が、日本中のあらゆる地域に進出し、同じような風景、同じようなものが提供されている。地元の商店街を再生し、地域コミュニティの中で、ものが消費される構造をつくらないといけない。

生活を考えたとき、地域に根ざすコミュニティづくりは極めて重要だ。地域経済の活性化ということでは、まず集客都市。地域の魅力は無から創り出すわけにはいかず、地域の財産を掘り起こすことから始まる。京都で商店街が中心になって町家をレストランにしたり、長浜も黒壁で観光客を呼び込む努力をしているように、何か付加価値をつければ、人は集まる。ただ、集まりすぎるのも問題で、ちょっと不便なところで、若干観光客も呼べる街がいい。

あるいは、ひたすら暮らしやすい街づくり。医療や介護システムを充実させ、老後に住みたくなる敬老シティをつくってもいい。老人の街というと、寂しい印象があるが、工夫次第で洒落た街づくりはできる。少子化の今後は、経済も文化も団塊の世代をターゲットにするのが一番。彼らが老後をいかに楽しく暮らせるかを考え、洒落た老人タウンをつくり、新たな老人文化を創出する。実は老人が暮らしやすい街は、小さな子供がいる家族も暮らしやすい。人口10万か5万で、3世代同居みたいなコミュニティが望ましい。

今までは、みんな一律に30代半ばで郊外住宅を買い、そのまま年を取る。千里や多摩ニュータウンが典型的な例で、それは高度成長、大量生産時代のやり方だ。これからは「手づくり」で街をつくる。住民たちが議論して、コミュニティをつくるのは、手間がかかるけど、仲間とともに何かを企てる楽しみがある。例えば、定年退職した団塊世代のパワーとフリーターやニートなどの若者の力を活用する。フリーターの若者の中には、会社勤めは嫌だけど、介護ならいいと言う人も多い。彼らは「競争」よりも「協調」で、仲間と一緒に何かやりたいという気が強い。その力をコミュニティづくりに活用すればいい。

そして、いくらゼロ成長になるとはいえ、経済は無視できないから、生活スタイルと文化と経済を、どう結びつけるかが大きな課題。経済優先で生活を顧みないのは困るし、利益の出るものだけが文化として残るのも困る。我々が文化として残したいものを、生活スタイルとして取り入れ、経済効果を出す必要がある。地域の特徴ある文化を自分たちで創り出す。それは自然との共生でも、逆に非常に人工的なものでもかまわない。あるいは京都の町家のように伝統ある美的なものを文化の核にしてもいい。

それができる地域として、僕は関西に期待している。
関西には歴史・文化遺産も人間関係もある。東京と違い、人間関係が濃密だから、人間の繋がりで、物事が動く。ヒューマンネットワークが関西の大きな財産だ。ビジネスと人間関係をうまく結びつけ、どこまでが人間関係でどこからがビジネスかわからないような形で動かすことが、これからのネットワーク型のサービス社会では財産になるわけで、信頼とかソーシャル・キャピタルをうまく活用するのが関西の特徴だ。

関西には京阪神はじめ、多様な生活コミュニティがある。東京は全て東京が中心で、周りは郊外でしかない。関西の多様性をうまく活力に変えるには、異なる文化の連携が重要だ。京都は大阪とは全然違うタイプの街づくりをすればいいし、神戸はモダンでハイカラな街。奈良は老人に特化するとか、滋賀は学者村。若いときは大阪で働き、途中で京都に移り、老後は奈良。そんなふうに多様性を生かしながら、ぐるっと関西を廻れば、いろんな暮らし方が味わえるのが、望ましい。

さらに言えばブランド化。生活のあらゆるものに関西的な文化センスを取り入れ、関西ブランドとして確立させる。伝統を踏まえて、新しい文化を創り出し、その文化を商品に、つまりブランドとして売っていく。長浜に住む人たちは満足度が高い。それは長浜がブランドになったからだ。地域の人々が、自分たちの誇りとして、楽しみながらローカリティを創り出すことが大事だ。

関西には昔ながらの人間関係やコミュニティ、だんじりや祇園祭など伝統的な祭も残っている。僕の理想を言えば、それをベースに、関西は徹底的に反近代主義、反中央集権主義でやっていけば、面白い存在になる。

ただ、そういう活動にサラリーマンが参加するには、働き方を変えないといけない。これが大変。企業は地域コミュニティづくりに積極的に関わるべきなのに、実際は難しい。友人の経営学者によれば、企業は、株主中心も、古い日本型の従業員中心も、お客さんだけ満足してもらうのも、ダメ。従業員、株主、顧客、社会・地域という4つの価値のバランスが取れた会社が良い会社だと。企業として社会貢献を行い、しかもそれを企業利益に繋げる。それが地域密着型企業ならできる。例えば電力会社はオール電化の普及に力を入れているが、建物を個別に電化するよりも、街そのものを電化都市にする。クリーンな環境都市づくりにまでコミットしていけば、それが企業の大きな社会的価値になる。このように、地域の人々の生活に結びつき、地域文化を興し、企業利益に繋がる仕組みを考えることが、これからの企業の課題ではないだろうか。■


関連資料

『暮らし再考察』の周辺 関連図書 『転換期』を読み解く12冊 


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