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輿水 精一・サントリー(株)ブレンダー室長;チーフブレンダー

2005.07.15
「世界に誇る『和』の酒をつくり育てた日本人の感性」

輿水 精一・サントリー(株)ブレンダー室長;チーフブレンダー

こしみず せいいち
サントリー株式会社 ブレンダー室長;チーフブレンダー
1949年山梨県生まれ。山梨大学工学部生産工学科卒。73年サントリー入社。多摩川工場ブレンドグループを経て、76年より研究センターでウイスキーの貯蔵・熟成を研究。山崎蒸溜所などを経て、91年よりブレンダー室勤務。99年より現職。2001年『響35年』を世に送り出す。『山崎』はじめ既存ブランドの品質を維持しつつ、『膳』など新しい味わいの世界を追求。2003年「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2003」で『山崎12年』が日本で初めてウイスキー部門金賞受賞、2004年「同2004」で『響30年』が部門を超えた最高賞のトロフィー受賞。世界一に輝く。


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麦芽と水で仕込みをし、発酵・蒸溜した後、樽に詰めて長期間熟成させると、琥珀色の原酒に──。ウイスキーづくりの基本的な工程は、スコットランドも日本も、ほとんど変わらない。しかし同様の工程を経ても、日本でつくったウイスキーには、他のどの国とも違う、日本ならではの味わいと品質がある。

もともと日本のような温暖な風土は、ウイスキーづくりに適しているとは言い難い。ウイスキーは10年、20年じっくり寝かせ熟成をピークにもっていって、その良さを味わう酒。けれども気温が高いと、樽に寝かせてる間にどんどん蒸発してしまうし、熟成スピードが速すぎ、オーク樽の成分が酒の中に出すぎて、味や香りのバランスが崩れてしまう。南の国でウイスキーをつくるのは無理がある。

日本の夏場の暑さは、ウイスキーづくりには本来ハンディキャップとなるものだが、逆にそれが、つくり手たちの貯蔵・熟成にかけるエネルギーを生んだ。日本のウイスキーは、つくり手の姿勢が違う。繊細というか、細かいところまで手をかける。「寝かせっぱなし」にせず、丹念に見守り、一樽ごとに違う熟成度合いや変化を見極め、良樽への詰め替えを行うなど、きめ細かく手をかける。もちろん樽も、ゆっくり熟成させるために大きい樽を使ったり、新しい樽だけでなく古い樽も上手に使ったり。それだけ手をかけるから、できあがった酒は非常に熟成感が高く、決してスコッチに負けない。それが、最近の評価の高さにつながっている気がする。

気候風土とともに、日本ならではのウイスキーを生んだ背景には、日本人の嗜好がある。味や香りに対する嗜好は、日本人と外国人は明らかに違う。例えば日本人はいくら華やかでよい香りでも、人工的な匂いには拒絶反応を示しがちだが、外国人はさほど気にしないことがある。フレグランス、香水の伝統が、そのあたりの感受性の違いを生んだのだろう。ブレンダー同士でも、僕らが鼻につくと思う香りに、彼らは全く気づかないことさえある。概して日本人は繊細で、微妙な違いにこだわり、強烈な個性よりは調和を求める。

こうした日本人の嗜好に応えるため、蒸溜所ではキャラクターの違う複数の原酒を意図的につくっている。スコットランドでは1つの蒸溜所は、普通1─2種類の原酒しかつくらない。しかし日本では、麦芽や酵母、ポットスチル(蒸溜釜)の形や大きさを1つ1つ変え、さまざまな種類の樽を使い分けることによって、キャラクターの違う原酒をつくり、それらを組み合わせることで、日本人の嗜好に合う複雑なテイスト、絶妙のバランス、高い熟成感の酒をつくってきた。

ウイスキーの世界で今伸びているのが、シングルモルトだ。シングルモルトとは、単一蒸溜所のモルトのみでつくったもの。いわば蒸溜所の個性を前面に出すものだ。シングルモルトという言葉もほとんど認知されていなかった1984年、『山崎』を出すときも、いろいろ試作はしたそうだが、テイスティングしてみると、どれもとんがりすぎている。スコッチだと1つの強い個性のものを出すわけだが、我々はそれをせず、いろんなキャラクターの原酒を吟味・厳選して組み合わせ、日本人の嗜好に合うバランスのとれたものに仕上げた。

もっとも近年は、日本人の好みも、洗練された中に個性を求めるよう、変わってきている。例えば焼酎は、かつては非常にクセの強い酒だった。1980年代、クリーンでニュートラルな飲みやすい焼酎──サントリーでいえば『樹氷』など甲類焼酎を開発、世界中を席巻した「白色革命」の一翼を担った。ところが今、さまざまな技術革新を経て、焼酎ブームの主役は、芋焼酎、麦焼酎など、原料の個性が際立つ本格焼酎(乙類)だ。ウイスキーも、主張が明快なシングルモルトが注目を集め、フルーティなものや、樽香の効いたもの、薬くさいものなど、多様なキャラクターの酒が登場している。

ただ、ウイスキーの味わいは、ブレンデッド・ウイスキー(性質の異なる数十種のモルトウイスキーを混ぜ合わせ、さらにグレーンウイスキーとブレンドしたもの)の方が、奥が深いと思う。今、世の中に出ているウイスキーの95%以上は、ブレンデッド・ウイスキーだ。ブレンダーにとってモルトは「素材」だが、この素材の面白さについて、これまで僕らはほとんど語ってこなかった。例えば『響』は36種類ものモルト原酒を選び、複数のグレーン原酒とブレンドしているが、それがどんなものか、お客さんは想像もできなかった。けれどモルトブームの影響で、お客さんは、原酒の持つ個性的で多様な世界に関心を寄せるようになった。蒸溜所の風土やつくり手のこだわりを背景にした、多様な個性を知り、選ぶ楽しさを感じ始めた。そういうところから、またブレンドされたものの良さをわかっていただければ……。

ウイスキーは特に若い人には遠い世界になりすぎ、最近はサントリーの新入社員でさえ、学生時代にウイスキーを飲んだことがない人も多い。昔は『レッド』から始まり『トリス』『ホワイト』『角』『オールド』『リザーブ』と段階を追って飲む酒のランクを上げていったものだが、今は若い人がいきなり『山崎』から入る。でも、それでいい。本物に触れて興味を持ってもらえればいい。まず触れてほしい、というのが切実な願いだ。

ウイスキーを敬遠する人に聞くと、きついとか苦いとか言うが、ウイスキーの飲み方は水割り、ロック、ソーダ割りなど、すごくバリエーションがある。ちなみにテイスティングでは、ウイスキーと水は1:1の割合。ストレートではわかりにくい微妙な香りが、1:1にすることで、一層クリアに見えてくる。もともと「水」は酒の品質に大きな役割を果たしていて、水が変われば酒の品質は間違いなく変わる。ここ山崎は、万葉の歌にも詠まれた名水の地。この素晴らしい日本の水で仕込んだウイスキーを、日本ならではの美味しい水で割って味わうのも、一興だ。

日本の風土と日本人の感性に育まれた日本のウイスキー──『響』の原酒の熟成期間は平均20年、一番若いものでも17年。それだけ長い歳月がかかるわけで、今つくる『響』は20年前に仕込まれた原酒がベースになり、今仕込んだ原酒が20年後の『響』の品質を決める。それだけに、急に変わった新製品をつくろうとしても、そうはいかない。同じポットで蒸溜し同じ時に樽詰めしても、樽の違いや寝かす場所の僅かな違いで、全く違った原酒に育つ。将来何になるかわからないが、新製品をつくるため新たな原酒の仕込みをしておくというのが、ウイスキーづくりの大事なところであり、大きなリスクでもある。

しかし、それだけのリスクを負い、長い歳月を費やすからこそ、ウイスキーならではの熟成感が味わえる。蒸溜直後の荒々しい個性が、時を経て、角がとれ、まろやかでやさしい味になる。さらに原料の麦芽や、水、酵母、樽──それぞれが生み出す成分が複雑に結合したり分解したりすることで、味も香りもどんどん深まっていく。これが「熟成」の力。酒の持つ香りの素晴らしさを凝縮したのが、蒸溜酒だ。口に含んだ瞬間広がる香り。麦の酒なのに花や果実、木の実、伽羅の香り──多様な香りが次々現れる。この幾重にも重なる複雑で奥行きのある香りの世界、熟成の極みを、繊細な五感を持つ日本人にこそ、ぜひ味わっていただきたい。■


関連資料

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