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玉岡 かおる・作家

2005.06.15
「『をんな』が支え、つくってきた日本人の心」

玉岡 かおる・作家

玉岡 かおる  作家 
1956年兵庫県三木市生まれ。神戸女学院大学文学部社会学科卒。2年間三木中学教諭を務めた後、87年「夢食い魚のブルー・グッドバイ」(新潮社)で作家デビュー。テレビのコメンテーターとしても活躍。他の作品「なみだ蟹のムーンライト・チアーズ」「クォーター・ムーン」「サイレント・ラブ」「ラスト・ラヴ」「天涯の船」(以上、新潮社)、「神戸ハートブレイク・ストリート」「ティアドロップ・プラネット」(以上、大和書房)、「をんな紋」「蒼のなかに」(以上、角川書店)、「水晶婚」(講談社)、「もの書くおんなの道」(実業之日本社)、「タカラジェンヌの太平洋戦争」(新潮新書)など。


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「元始、女性は太陽であった」。明治期に平塚らいてうがそう声を挙げたように、日本史を紐解くと、邪馬台国の卑弥呼以来、女性の主役が出てこない。日野富子とか北条政子とか、烈女と言われる女性はいたが、彼女たちはみな権力者の傍らで、それを支える役回り。太陽でなく、月だった。

日本の女性は、月として男性を支えてきた。明治維新を起こし、アジアで唯一、西洋列強に支配されず近代化に成功したのも、女たちが支えたから。例えば桂小五郎の奥さんの幾松は、逆境にあっても小五郎をかばい続けた。時代が変わるときに支えたから、あれだけの仕事を男たちにさせることができた。「男を上げた男」はみんな、奥さんや母親が偉かった。

「明治の人は偉かった」と言うが、本当は明治ではなく江戸時代に生まれた女たちが偉かった。それで明治がぐっと成長した。彼女たちは良妻賢母としてわが子に家庭教育を行った。女たちが教えたのは、「恥を知る」「名を惜しむ」こと。これこそが「日本人の心」だと思う。自ら恥を知っていたから、恥を知る男を育てることができた。歴史に名を残したどんな偉人も、女から生まれた。日本人の心は女がつくってきた、と言っても過言ではないくらい、女性の貢献は大きかったと私は思っている。

にもかかわらず、長く女性は権利を認められてこなかった。財産相続もできず、権利が侵されても訴訟もできない。かといって何もしなかったわけではない。表に出ず裏で心を配る賢さ、知恵を持っていた。

その最たるものが「女紋」。家紋をつけることさえ許されなかった女たちは、祖母から母、母から娘へ、姓を超えて、女だけの紋を伝えていった。着物に箪笥に長持ち、汁椀の一つにまで、嫁入り道具に女紋を付けて送り出す。たとえ放蕩な男に嫁ぎ、嫁入り道具を質入れされたとしても、同じ紋の人にしか商品価値がないから、質屋で止まる。娘の財産を守ってやれる。直径一寸、3センチにも満たない小さな紋に、それだけの知恵を込めた女たちのしぶとさ、生への執念、血脈への思い入れ。女紋こそが、かつての日本女性の魂、精神のよりどころだった。

女性が人間として生きていくための権利を取り戻す過程が、この近代だった。女性を奥に閉じこめ、男だけで歴史をつくってきた日本が西洋とぶつかり、それでは文明国家として認められないことに気づいたのだが、伊藤博文にしろ井上馨にしろ、奥さんは元芸者。芸者は当時のキャリアウーマンだけど、やっぱり諸外国からは芸者ガールと侮られてしまう。これでは拙いと女子留学生制度がつくられ、津田梅子たちが海を渡ったが、彼女たちの悲劇は、いくら進んだ勉強をしても帰国して活躍の場がない。津田梅子の場合、子供の頃、渡米したので日本語を忘れてしまい、帰国後、英語は母国語並みに堪能でありながら教壇に立てなかった。

高度な教育を受けても外に出ないことが美徳とされていた良家の子女と、キャリアウーマンとして前線に立っても、たかが芸者と見られる女性たち。「女の敵は女」と言われるが、そういう二層構造を破るのに、日本は100年かかった。

これまで、どれだけの才能が埋もれてきたのだろうと思うと、とても惜しい。でも、それくらいの時間がかかっても仕方ない、とも思う。フランス革命は農家のおかみさんたちの「パンをよこせ」運動から始まったが、日本女性は自らは前に出ず、男の一歩後に控えていて、戦後ようやく外側から扉が開かれた。自ら立ち上がらなかった分、時間がかかった。善し悪しはともかく、それが西洋の女たちとの違いだ。

戦後「女性が強くなった」と言われるが、むしろようやく男性と同様に生きられるようになったに過ぎない。今や女性は自分の能力を磨くことに素直に労力をかけられるようになった。長く「能ある鷹は爪を隠す」時代が続き、隠さなくてもいい時代が来たおかげで、みんな自分を磨くことに熱心。人間は、自分の力を生かしたいという願望は止められない。環境が許せば、のびのび伸びていきたいという思いは、植物も動物も持っている。「向陽性」、日に向かう力。根を暗い所に植えても、芽は明るい方に向かう。人間も生物である限り、それは誰にも止められない。

但し、この100年で失ったものもある。
明治期に学校をつくり、教育を家庭から取り上げた。確かに日本の学校教育は世界に誇るシステム。全国どこでもタダで教育を受けられるなんて、世界にない。だけどあまりにも画一化しすぎたため、その家にだけ語り継ぐべきもの、いわゆる「女紋」の世界がなくなってきた。足並み揃えるのもいいが、その家、その地方独特の歴史で培われてきたものを伝えることがなくなっている。加えて恥とか名を惜しむことも教えられていない。これらはもう一度、家庭──父親と母親──と学校双方で考えていくべき課題ではないか。

明治の罪は、「和」の文化の否定。価値観が変わり、文化・社会が変わってしまった。着物を着なくなったので「女紋」に込められた思いを伝えることは難しくなったし、全てリサイクルしていた江戸時代の暮らしから、近代化・工業化が進み、消費するだけ、環境を汚すだけの文明が広がった。モノを大事にしなくなり、ゆとりもなくなった。東海道五十三次を何カ月もかけて旅するのは馬鹿げたことのように言われ、道中の景色も見ず、味わうべきものも味わわず、「省略の文化」に浸かっている。日本文化のお茶にしろお花にしろ、心を込めて手間をかける、いわば「ムダの文化」。なのに今は、1分1秒でも早いことに価値を置き、その結果、事故を起こすなんて、悲しすぎる。

日本人はどんどん短絡的になり、思考そのものが省略されていってるのではないか。悲惨な犯罪が増えているのも、イマジネーションの欠如。傷つけられたり殺された人の人生、泣く家族に思いが至らない。ちょっと立ち止まって、想像する力が豊かであれば、犯罪なんて起こらないはず。

イマジネーションを与えてくれるのが日本語だ。漢字は見たら意味がわかる。日本語の素晴らしいところは、漢字があり、またひらがなという独自の柔らかい文字も工夫してつくられた点。日本語を使う限り日本人の魂はなくならないと思うけど、残念ながら、この文化遺産を今の日本人が読めなくなっている。ヘンな英語やカタカナ語ばかり使うようになっているのは、ちょっと危険信号だ。

日本人はもっと日本文学を読んでほしい。テレビや映画で済ませたり、単に知識を得るためのハウツー本ではなく、文学を読み、心を揺さぶられて、想像する。書評を読んでわかった気になってしまい、根幹のところでの揺さぶりが、どんどんなくなっている。知識ではなくイマジネーション。骨のある本当の日本文学に浸ってほしい。その中には、日本人の魂もあるし、日本人が失いかけているいろんなものが詰まっているわけだから。■


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