Insight時代を解くキーワード Presented by 関西電力
| HOME | このサイトについて | メルマガサンプル | 談話室 | 配信申込・解除 | お問い合わせ・ご意見 |
関西電力HPへ
Main Column Break Close up エナジー News Clip 関西電力 講堂(イベント/セミナー)
 

Main Column
 

奥野 卓司・関西学院大学大学院社会学研究科教授

2005.04.01
「電力自由化拡大の構図──グローバルな視点から」

奥野 卓司・関西学院大学大学院社会学研究科教授


のむら むねのり
関西学院大学経済学部教授(産業経済学・公益事業論)
1958年神戸市生まれ。関西学院大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程修了。大阪産業大学助教授を経て、現職。欧米やアジアの電力自由化を研究。主な著書「民営化政策と市場経済」「イギリス公益事業の構造改革」「電力─自由化と競争」(編著)、「電力市場のマーケットパワー」、共著「電力市場の参入者」「欧州の電力取引と自由化」「変貌するアジアの電力市場」「規制と競争のネットワーク産業」「EUの経済と企業」など。


2005年4月1日、日本では改正電気事業法が施行され、自由化範囲は一般家庭などを除く全てのユーザーに拡大された。卸電力取引所ができ、託送制度も見直され、全国が「1つの市場」になった。07年には全面自由化の検討も始まる。一方、諸外国に目を向けると、自由化先進国のEU諸国では、既に03年のEU指令に基づき加盟国の07年全面自由化が決定しており、多様な動きが進んでいる。EUの先進事例を見ながら、日本の自由化について考えたい。

自由化で注目されるのは、まず需要家離脱率だ。 需要が伸びパイが膨らんでいるときには競争しても利益が減ることはないが、需要が伸びないと顧客争奪戦になり、必ずしも利益を生むとは言えない。例えば、既に完全に自由化している英国で、既存事業者から新規参入者(PPS)へスイッチした率は、4割以上。これを日本の電力会社は悲観的に見がちだが、そんなに心配しなくていいと思う。なぜなら「市場の広域化」により、既存事業者が別の地域にPPSとして参入、「取られたら取り返す」ことができるからだ。現に英国ではスコットランドの電力会社SSE(スコティッシュ・サザン・エナジー)がイングランドに進出するなど、トータルのシェアはそんなに落としていない。日本の電力会社も、手をこまぬいていてはダメだが、いたずらに悲観せず、外に目を向ければいい。

日本の場合、ガス・石油系や自家発電系などのPPSが新ビジネス開拓として非常に熱心に取り組んでおり、まだシェアは小さいものの大口ユーザーを獲得するなど、経済活性化面で効果を上げている。一方、EUでは、そういう新規のPPSの動きより、ドイツをはじめ各国の既存事業者がエリア外に、それも国を跨いで動くことが活発化。まさにヨーロッパ全体が1つの市場になっている。

日本の電力会社は、国内の他地域進出も、まだみんな牽制しあっている状態だが、多分1社が動くと止まらないだろう。自由化が怖いのは、一旦動き出すと止まらない点。そこでどういう競争をしていくのか。もちろんエリアを跨いでの顧客争奪戦もあり得るが、これまで各地域に深く根づいた形でやってきた日本の電力会社に、それがどこまで馴染むか。他地域に進出するなら、社名を変えて出ていくとか、人材採用時に多様な地域の人を採用するなど手だてが必要だろう。

むしろ日本の場合、外は外でも国外──アジアにどれだけ関心を持って動けるか。今はコンサルティング業務がほとんどだが、一歩踏み込んで発電事業、さらには小売事業を開拓する可能性もある。とりわけ電力需要の旺盛なベトナムなどで、インフラ整備として発電事業を手がけていくことが期待されている。政情不安などのリスクも当然あるが、アジアを1つの広域市場として捉え、その安定供給に関与していくことは、国際的にも意義がある。

このように、自由化の中で市場は広域化していくが、欧米での自由化の教訓を挙げるなら、安定供給のためには電力会社間をつなぐ「連系線強化」が非常に重要ということだ。公平な競争条件確保のため、アンバンドリング(送配電部門の独立性)は大事だが、完全に別会社化する発送電分離では、送電部門の設備投資インセンティブの低下という問題が生じる。EUでは別会社化しても、英国以外の国は送電会社を国有で残しているので、他国との連系線強化はやりやすい。「自由化だから勝手にやればいい」ではなく、たとえ送電線のオーナー(所有者)とオペレータ(運用者)を分けても、投資の責任主体を決め、EUの総意として100以上のインフラ投資プロジェクトを掲げ、優先順位をつけて計画的に推進しようとしている。これは凄いことだと思う。

日本でも連系線の重要性は言われるが、なかなか前へ進まない。自由化の中で料金引き下げばかりが強調され、中長期的観点での連系線強化が後回しにされるのは望ましくない。電力間競争の中ではコスト削減圧力が強まるが、インフラ投資や安全への投資を削減してしまうと、03年のイタリアや北米大停電のように、損失を受けるのは市民。事故の未然防止へのインフラ投資は不可欠であり、それを無視した安売り合戦は本末転倒だ。

そして日本でまだあまり知られていない点かもしれないが、結局、自由化にはコストがかかる。電気に色はつけられないので、最終的にはブランド勝負。「ブランド力強化」が大事になる。となるとそれには膨大なコストがかかる。EU企業は、広告宣伝費はもちろん、客をスイッチングさせるための戸別訪問の人件費などに多大な費用をかけている。そして何より安定供給コスト。安全面でのインフラ投資への原資確保を前提に、ブランド力競争や値引き競争をすべきであり、やっぱりコストをかけるべきだ。

自由化は新規参入者の増加による市場細分化と捉えられがちだが、先行しているEUでは、逆にブランド力による「寡占化」が進んでいる。ガスを含めた業界再編──電気とガスのセット供給は魅力的だから、欧米ではデュアルフュエルがほとんどであり、どうしても寡占化してくる。寡占化のデメリットへの目配りはもちろん必要だが、効率的に稼げる都市部にばかりPPSが集中し、非効率な過疎地が放置されがちな自由化の実態や、際限のない価格競争を考えると、需要の多い地域と少ない地域をセットで、とか、電気とガスをセットで供給する方が、全体としての合理性があるのではないか。

こうした諸外国の状況を見ていると、日本の電力会社は、公益性の高い分野で、他社がやりたがらないことを行い、信頼感を高めることが非常に大事だ。敢えて「しんどいこと」を引き受けることで、ブランド力は必ず高まる。電力だけでなく、自治体が手放したがっている公営事業を引き継ぐとか、地域交通としてのバス輸送を支援するなど、「痒いところに手が届くサービス」を行うことで、必ずしも料金競争に拠らない顧客獲得ができるのではないか。もちろんどこかで儲ける必要はあるわけで、「外」へ出ていくことを考えればいい。

健全な競争促進へ、今年の注目は「取引所」だ。この取引がどれだけ増えるか。先行している北欧は約3割、他の諸国では大体10〜15%。取引所をつくり、連系線をきちんと整備すれば競争は良い方へ動くが、それには時間がかかる。妥協案としてEUで出てきたのが、新規参入者が既存事業者の発電設備を一定期間自由に使うため競争入札を行う、バーチャルオークション。フランスが実施したもので、所有権は既存企業が持ち、出てきた電気を買ってもらう方法だが、むしろ発電設備売却の方が良いのではないかと思う。日本のPPSも、取引所から電気を買うことに加え、設備を買い取って公益財供給への責任感を持つべきだと思っている。

電力自由化──一般的な商品と異なり、公益的な財であるエネルギーの安定供給につながる制度改革とはどういうものか。今、各国で実験を行っている段階であり、まだ理想的なモデルはない。全面自由化へ動くEUと対照的に、アジアでは自由化の足踏み状態も出てきている。インドネシアでは04年12月、電力自由化法案が破棄され、「公共の利益のために電力供給事業は国営企業によって実施される」ことになった。タイや韓国も、自由化には慎重になっている。世界の動きは必ずしも「自由化一辺倒」ではない。各国が固有事情を踏まえながら、多様な実験を通じて、良い方向を見出さざるを得ないということだ。■


関連資料

『電力自由化』の周辺 関連図書 「電力自由化」を読み解く11冊 


Columnカテゴリ検索
政治・外交
経済・経営
社会・生活
文化・文明
科学・技術
電力・エネルギー
関西
サイト内全文検索
最近のMain Column


Insight時代を解くキーワード
Copyright (C) 2002-2008 KEPCO THE KANSAI ELECTRIC POWER CO., INC.