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奥野 卓司・関西学院大学大学院社会学研究科教授

2005.03.15
「情報鎖国から開国へ、イット革命がつくる世界」

奥野 卓司・関西学院大学大学院社会学研究科教授


おくの たくじ
関西学院大学大学院社会学研究科教授(情報人類学;技術文化論)
1950年京都市生まれ。京都工芸繊維大学卒、同大学院繊維学研究科応用生物学専攻修士課程修了。京都芸術短期大学助教授、イリノイ大学客員準教授、甲南大学助教授、教授を経て、97年より現職。愛・地球博「世界宗教者平和会議」出展顧問なども務める。主な著書「日本発イット革命─アジアに広がるジャパン・クール」「第三の社会」「ITSとは何か」「人間・動物・機械」「情報人類学」「パソコン少年のコスモロジー」「ボクたちの生態学」など。

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「情報社会」という術語は関西で生まれた。IT革命もユビキタスも、情報絡みの術語はどれも欧米語の翻訳だが、情報社会は1970年の大阪万博の時に関西の知識人が生み出し、世界に広まったものだ。

1960年代半ばから世界は大きく変わった。公害や資源枯渇が危惧されるようになり、ローマクラブが『成長の限界』で警告したように、産業革命以来の大量生産・大量消費の仕組みを改めないと、社会そのものが維持できないという認識が広まり始めた。では、次の社会とは?──D・ベルは「脱工業社会」、知識が中心になる社会としたが、具体的な答えには至らなかった。

これに初めて答えを出したのが、梅棹忠夫氏ら関西人。70年万博のコンセプト「人類の進歩と調和」を考える過程で「情報社会」という術語を生み出し、「モノを生産・消費する社会から、情報を生産・消費する社会へ」の転換を提唱。万博では、月の石ばかり注目されたが、実はこのときポケベルなど今日の情報社会につながる実験が行われた。

「物質から情報へ、モノからコトへ」の転換が情報社会、IT革命とすれば、その本質はパソコンや携帯電話、DVDが売れることではなく、それらのツールを介して人々の間に多様な情報が流通し、それによって生活が豊かに、楽しくなること。だとすれば、最近パソコンや携帯が売れなくなったのも、既にモノとしてのツールは行き渡ったからであり、情報社会の深化は著しいと言えよう。

そういうなかで日本が、モノやハードウェア技術に力を入れるのは愚かな話。90年代初頭、クリントン政権時代にアメリカは、ゴア副大統領が情報スーパーハイウェイ構想を打ち出し、全米規模の情報基盤を整備。この構想はゴアのお祖父さんがアメリカ全土のハイウェイをフリーウェイとしてつないだことに倣ったもの。ともあれ日本に10年先んじたアメリカがIT関連の基本特許を押さえているので、いくら日本が対抗しようとしても、最終的な利益はアメリカに流れる構造になっている。

むしろ、めざすべきは「イット革命」。以前、ITを「イット」と読んだ首相がいたが、実はそれが正しかったと僕は思う。イットは英語のスラングで「ちょっといいもの」。まだ表舞台に出るほど正統なものじゃないけど、人々の生活を豊かにしたり、ワクワクさせたりするものを指す。とすれば、イットこそ情報革命の本質ではないか。

このイット革命、世界的には「クール政策」と呼ばれている。最初に唱えたのは、ブレア英首相。イギリスは産業革命を起こした国でありながら、アメリカに覇権を奪われたが、文化・芸術はアメリカよりずっと優れたものを持っている。それらをインターネットや衛星放送に載せれば、ものすごく魅力的なコンテンツになる。そういうクール(cool=カッコいい)なものに立脚した産業を興して再生しよう、というのがクール政策だ。

イットの意義に、日本より早く気づいたのは韓国。「韓流」ブームも、実は韓国の国家政策だ。ブロードバンド環境を整え、芸術・文化のコンテンツを世界に発信していこうと、国が前面に立ってドラマやアニメ、映画制作に力を入れている。翻って日本を見ると、既にさまざまなイットを持っている。日本のアニメはアメリカで「クールアニメ」と呼ばれ、アジアでも、マンガやJポップが「ジャパン・クール」として圧倒的な地位にある。

だけど今日、韓国や中国は長年日本アニメの下請けをするなかで、着実に技術を習得。ゲームに至っては日本は強いと思っているが、既に完全に負けている。我々が認識すべきは、インフラとしてのブロードバンド環境は、日本は東アジア最低の地位にあるということ。諸外国ではゲームと言えばネットゲームなのに日本は未だにパッケージ型ゲーム。さらに言えば、日本でインターネットはドメスティックネット。日本人同士の情報交換に使われるだけで、世界に対しては、ほとんど「鎖国」状態。こんな国は他にない。

これは言葉の壁が大きいが、もう1つは、日本の放送・通信が一貫して日本国内だけを対象とし、あまりにも独自路線・独自技術を追求してきた点にある。高品位テレビも世界がデジタルで研究を始めたのに、アナログでスタート。また、放送専用衛星を持っているのは日本だけ。世界はCS、放送にも使える通信衛星が当たり前。独自性へのこだわりが日本の技術を伸ばしてきたのは事実だが、グローバルな時代にはそれが弱みになることがある。

優れたコンテンツをどうやってブロードバンド環境に馴染ませ、新たな産業として世界に発信していくか──これが、情報社会における本来の戦略であり、そろそろ日本も、グローバルを前提に「開国」し、その上で日本の国益を主張するようにしないといけない。

グローバルな情報社会への開国はいくつかの問題もはらんでいる。 1つは著作権や知的所有権の問題。たとえ鎖国したままでも流出してしまうのが情報だ。日本のBSで放映しているアニメがスピルオーバーで台湾や韓国に届き、勝手にコピーされて売られるなど、日本がビジネスとして回収できない状況が依然ある。これに対し、ディズニーのように徹底的に著作権を主張し利益を上げていく方法もあるが、マイクロソフトのように、ある部分まではタダで開放する方法もある。ノートパソコンを買うと当たり前のようについてくるWordやインターネットエクスプローラは、マイクロソフトにとっては製品でなく「タックス」。ソフトウェアは多くの人に行き渡るほど市場が拡大するから、所有権をキチキチ主張し過ぎると却って敗北することがある。モノでなく情報流通で成り立っている情報社会では、「所有」より「使用・共有」を考えた方がいいように思う。

もう1つ、インターネットは世界中に広がっているから、当然悪い人も利用し、情報漏洩などの危険も増える。安全のために方法は2つ。1つは「暗号」を使うことだが、相手が解ける暗号は、時間さえかければ第三者にも解けるという矛盾がある。現在「究極の暗号」として量子暗号が研究されており、これが実現するまでは暗号を複雑にして時間を稼ぐしか手はない。2つ目は信頼できる人との間を「専用線」で結ぶこと。有線の電話なら安全だったが、インターネットや衛星は違う。衛星の電波は漏れるものだし、複数のルータを経由して情報を届けるインターネットでは、1つのルータに不備があれば情報は漏れる。

そもそもインターネットは、米軍が開発して民間に開放、大学研究者やNPO組織の情報交換メディアとして──つまり自分たちの中で閉じるより、できるだけ多く外とつながりたい人々の間で広まったもの。だからシステムもオープンが前提で、隠すことをしなかった。しかも利用はタダ、プロバイダーは接続料だけで通信料は取ってない。これをビジネスに使おうとするとセキュリティ、情報保護が問題になるわけだが、もともとボランティア的なものに「専用線と同じ安全」を求める方が無理ではないか。

今春4月、個人情報保護法がスタートする。信頼できる情報社会へ、制度的措置は大事だし、技術革新も必要だが、情報社会に住む一人ひとりが、リスクはあるという前提で、インターネットを使うことも大事ではないだろうか。 ■


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