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安田 雪・東京大学大学院経済学研究科COE特任助教授

2005.01.15
「人と人との信頼関係──人脈づくりを科学する」

安田 雪・東京大学大学院経済学研究科COE特任助教授


やすだ ゆき
東京大学大学院経済学研究科COE特任助教授;
社会ネットワーク研究所所長;GBRC社会ネットワーク研究所所長 (社会ネットワーク分析;社会学)
1963年東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒、コロンビア大学大学院社会学研究科博士課程修了。Ph.D. 立教大学助教授などを経て、2004年より東京大学大学院経済学研究科特任助教授。2002年より(有)社会ネットワーク研究所取締役社長。著書「人脈づくりの科学」(日本経済新聞社)、「働きたいのに…高校生就職難の社会構造」(勁草書房)、「ネットワーク分析」(新曜社)、「日米市場のネットワーク分析─構造社会学からの挑戦」(木鐸社)など。

(有)社会ネットワーク研究所>> http://www5.ocn.ne.jp/~yasuda/

信頼する能力、される能力は個人の資質だという説がある。でも私はそうは思わない。それは「組み合わせ」の問題であって、個人の問題ではない。人間の性格や傾向のような形で信頼能力を規定してしまうと、変われない。可能性がないし、立ち直れない。とりわけ日本人は刻印能力が強いから、一度ラベリングされると信頼回復は難しい。だが、信頼能力を組み合わせと捉えれば、人間は変われるし、学習が可能になる。そう捉えた方が、信頼概念がダイナミックになる。

実際、私が行っている企業従業員のパーソナルネットワーク調査でも、パフォーマンスの悪いチームは、やっぱり組み合わせが悪い。リーダーを変え、チームの組み合わせをちょっと変えるだけで、チーム内の信頼関係が増し、モラールやパフォーマンスが上がる。構造を変えることで信頼は醸成できるし、関係を変えることで成果は大きく変わってくる。

とすれば、できるだけ豊かな人間関係、人脈を持っていたい。
ある調査によると、日本人1人当たりの知人の数は200〜300人、アメリカ人は1200〜1500人。アメリカ人の中でも知人が多いのは、引っ越しの多い人、頻繁に転職する人、出世したり転落したりして社会的に階層を移動する人。つまりいろいろな意味で「移動の多い人」ほど知人が多い。一方、日本人は、アメリカ人ほど頻繁に転職や引っ越しをするわけではなく、社会階層の移動も少ない。

現に多くの日本人は、限られた範囲の、同質的な集団の中で生きている。私だって一日に会って話をするのはせいぜい10人。そのほとんどが家族と大学関係者。人間は誰も放っておくと同質的な集団に安住してしまう。内輪で固まっている方が気楽だし、面倒もないわけで、我々は基本的に同世代原理と同組織原理で生きている。だけど、固定的な位置にいると固定的な人間関係になるので、そこでの信頼関係がその人の信頼能力のように周りも見るし、自分もそう思ってしまう。それが、動くことで変わる。

人脈を固定しないため一番大事なことは、「遠くへ橋を架ける」こと。もちろんコアは自分の周り。それをしっかり固めた上で遠くへ橋を架ける。別に地理的な遠方ではない。自分とは違う世代、違う場所、違う世界に生きている人に会うことが、人脈を広げる意味でも非常にいいことだし、人を信頼する能力、信頼してもらう機会を増やすことになる。

信頼する能力は、他者への好奇心をどれだけ持てるかにもよる。思想や哲学、夢、あるいはトラブルなど厄介事も含め、相手の人生に関心を持つ。相手を理解できなくても、まずは興味を持つ。無関心こそが信頼関係の対極。イヤな奴と思う方がまだマシで、無関心では何も始まらない。

といっても、何も一緒に食事をしたりお酒を飲んで深い会話をするのが人脈とは思わない。本当の人脈はもっと緩やかで多様なもの。日常生活の中で偶然でしか接しないし、何の損得もないけど、知っているという関係を広く柔らかく持つ人こそ、本当の意味で「顔が広い人」になる。毎日立ち寄るコンビニの店長からは売れ筋商品、ガソリンスタンドのお兄さんからは原油価格の動向、駅員さんからは今年のコートの流行とか、あらゆることを幅広く、自分の周りを動かして新しい情報や刺激を持ち込める関係を築いている人こそ、人脈が広い、顔が広いと言うのではないか。

人間関係で怖いのは、1対1ではうまくいってたものが、第三者の登場で信頼関係が変質したり崩れたりする可能性が常にあること。自分の周りは見えても、自分のつながっている人たちが誰とどうつながっているかは見えない。自分がどういう関係構造に埋め込まれているか、不確定な状況のなかで私たちは生きている。けれども他者の人間関係はコントロールできないし、するものでもない。だったら自分で広げ、違う世界に橋を架けていくしかない。

そんななかで常に違う世界に橋を架けるには、意志的な努力が必要だ。たとえ橋を架けても、1年で9割は壊れてしまう。原因は2つあり、1つは橋そのものの消滅。諸々の事情で縁が切れてしまう。もう1つは、自分が橋の機能を果たせなくなる。つまり私がAさんとの間に橋を架けたことで、私の周りの人がどんどんその橋を使ってAさん側の人たちとつながりをつくれば、Aさん側との唯一の橋という私の役割は終わってしまう。そうなった時、その橋はもう他人に委ねて、自分は新しい橋を架けるのが、フロントランナーだ。研究者でも営業職でも、立ち止まらず次々新しいものをめざすことができれば一流だ。
このような生き方は、ある意味で孤独であり、きつい。意識的に努力しなければ、できないし、意識したとしても、誰にでもできるものではない。

一方、こうした人脈形成について組織・集団の視点から見ると、人脈の移転は極めて難しい。祖母が亡くなると地域の縁がばっさり切れたり、組織でも誰かが辞めると貴重な外とのつながりが切れてしまったり。ノウハウは継承できてもノウフウ(know who)の継承は至難の業。人が辞めたとき技術や情報の引継は行えても、人脈という本質的な部分は移せない。社員の間で人脈の移転が上手にできれば、社内で持っているソーシャルキャピタル(関係性資産)が、個人のものでなく組織のものになる。

そのために私も現在、産業技術総合研究所の若手研究者と一緒に「関係形成支援」の研究を行っている。世界はわずか6人でつながっている、という有名な調査結果があるが、初対面の人が実は知人の知人だったりして、意外に短いステップで人と人はつながっている。だから関係構造の提示が、関係形成を支援することになる。簡単な方法としてはWebの検索エンジンを使ったデータマイニング。人名や企業名、ブランドなど、測りたい分野の2つの名前を入れて検索し、出てきた情報量で、相互の距離を測る。やってみると実はいろんなものが意外とつながってることがわかるわけで、名人芸と言われてきた人脈づくりを科学的に支援することができる。

人間関係を科学的に考える──それに抵抗感を示す人も多い。だが、目的を持って形成される集団において、人間関係を自然に委ねておいてはいけない、と思う。例えば異なるグループ間の信頼関係の継続には、まず紐帯(橋)の安定性が必要だ。いつ切れるかわからないようなものでなく、安定的なブリッジキーパーの存在が要る。そして「未来」へつながる予感。仮に自分がいなくなっても、代役がいることで、先につながる可能性を見せ、先々まで互いに影響し合う部分を担保しておく。加えて、常に橋を使い続けること。橋を架けても使わなければ腐って落ちる。常に新しい情報なり財なりを送り続けることが大事だ。

信頼される組織というのも、冒頭述べたように、その組織の性質というよりも、その時々で組織が外部とどういう関わり方をするかの問題だ。信頼は一度壊れたら元に戻らないものではないし、その組織の先天的・決定的な問題ではない。なにより「信頼は努力によって醸成し得るもの」なのだ。

企業と社会の間に信頼を醸成するには、日々地道なレベルで、多種多様な人々に多種多様なメディアで語りかけること。コマーシャルやプレスだけがメディアではない。従業員1人に500人の知人がいるとすれば、彼らが知人に会社の姿勢を誠意を持って伝えれば、従業員数×500人の信頼関係ができ、その500人がまた誰かに話してくれれば500×500=25万人の信頼関係のネットワークができる。そういう形で多種多様な橋を架け続ければ、信頼のネットワークが必ず形成され、日々新しい信頼が醸成されていく。■


関連資料

「『信頼ネットワーク』の周辺」 関連図書 「人と人とのネットワーク」を読み解く10冊


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