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山名 元・京都大学原子炉実験所教授;原子力長計策定会議委員

2004.12.10
「核燃料サイクル政策徹底審議、
 原子力長計・中間取りまとめのポイント」

山名 元・京都大学原子炉実験所教授;原子力長計策定会議委員


やまな はじむ
京都大学原子炉実験所教授;原子力長計策定会議委員
1953年京都市生まれ。東北大学工学部卒、同大学院工学研究科原子核工学専攻博士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団(現・核燃料サイクル開発機構)再処理工場副主任研究員、同大洗工学センター主任研究員を経て、京都大学助教授。2002年より現職。核燃料の再処理工学を専門とし、再処理技術を支えるための基礎化学研究として、アクチニド元素や核分裂生成物の化学的・核的特性を調べる研究などを推進。

ホームページ>> http://hlweb.rri.kyoto-u.ac.jp/npc-lab/

2004年11月12日、原子力委員会の新計画策定会議は、2005年中に策定予定の新原子力長計に盛り込む「核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ案」を発表、「再処理リサイクル路線」継続の方針を改めて表明した。

原子力長計(原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画)は、その名のとおり、わが国における原子力利用の長期的・基本的方針を定めたもの。1956年の第1回策定以来、数年ごとに見直されており、これまで一貫して再処理リサイクル路線──使用済み燃料からウランやプルトニウムを回収し再利用する、特にプルトニウムについては短期的には軽水炉でのプルサーマル利用、長期的には高速増殖炉での利用──をめざしてきた。それが今回の審議では、こうした核燃料サイクルのあり方を、一から見直そうという議論をした点で注目される。

なぜ「一からの見直し」なのか。そこには、再処理路線を決定した当時と現在のエネルギー利用環境の変化がある。かつては、天然ウランも有限だからリサイクルして有効利用しよう、と再処理を決めた。ところがその後、原子力開発は想定よりも低調だったことに対し、ウラン供給は想定以上に安定していた結果、ウラン価格は低位安定。これにより、リサイクルの必要性は低い、と指摘されるようになった。加えて2003年末には、再処理から最終処分までのバックエンドコストが40年間で18.8兆円という試算が出たことで、「再処理は高くつく」という風潮が広まった。こうした動きと長計の審議時期が重なったため、この際、核燃料サイクル政策のあり方を徹底的に問い直そうとなったわけだ。

具体的には、4つのシナリオを想定して審議を進めた。
シナリオ1= 全量再処理。六ヶ所再処理工場の処理容量800t/年を超える使用済み燃料は中間貯蔵後に再処理する。
シナリオ2= 部分再処理。六ヶ所再処理工場の処理容量を超える分は再処理せず直接処分(地中埋設)する。
シナリオ3= 全量直接処分。
シナリオ4= 当面貯蔵。当面は再処理も直接処分もせず、貯めておき、政策決定を先送りする。
こうした複数のシナリオ──つまり現行の再処理リサイクル路線以外のシナリオを、公式に、詳細に検討したのは初めて。この点、画期的な試みだったと言っていいと思う。

今回の審議のもう1つの特徴は、総合的・多面的評価だ。
目の見えない人に象を触ってもらったら、ある人は「太い柱のようだ」、別の人は「細い紐のようだ」と、みなが違うことを言うという昔話があるが、燃料サイクルを巡る最近の議論はこれと似ている。経済性だけを取りあげ「大問題だ」と言われているが、それだけでは燃料サイクルの全体像は掴めない。それで私は燃料サイクルの総合評価をすることを提案したが、多くの委員も同じ意見だった。結果的に今回は、1. 安全性の確保、2.エネルギーセキュリティ、3.環境適合性、4.経済性、5.核不拡散性、6.技術的成立性、7.社会的受容性、8.選択肢の確保、9.政策変更に伴う課題、10.海外の動向、の10項目について4つのシナリオを評価し、総合的な判断を行うことになった。

とりわけ経済性は今回の最重要テーマなので、私を含む策定会議メンバー8人で別途「技術検討小委員会」を設け、直接処分についての徹底的なシミュレーション評価を実施。これが非常に大変な作業だった。なにしろ日本ではこれまで、直接処分について詳細に検討したことは一度もなく、使用済み燃料を地中埋設するときに、どのくらいの面積が必要で、どんな措置が必要か、全くデータがない。それを全部、技術的に詳細に評価する作業を行った。

直接処分には、いくつか技術的に不明確な点がある。例えば、4mもの長さがある使用済みの燃料集合体を専用の処分容器(キャニスター)に入れると、重さは1基約40t。それを地下数百mに埋めるには非常に高度な遠隔操作技術が要るし、使用済み燃料は地中で熱を発するので人工バリアの粘土に温度の影響を与えないようにするには1基ずつ離して埋めないといけない。さらに処分後1000年以上たって容器が腐食すると放射性物質が溶け出すが、それがどのような溶け方をして、地中から我々の生活環境にどう移行するのか。高レベル廃棄物の処分研究で得られた知見や経験をうまく適用しながら、1つずつ詳細にシミュレーションを重ねて、処分場の広さやコストを割り出した結果、日本初の正式なコスト対比──再処理と直接処分のコスト対比が可能になった。

結論を言えば、燃料サイクルコストは、全量再処理1.6円/kWh、直接処分0.9〜1.1円/kWhで直接処分の方が多少安い。他の2つのシナリオはその中間だ。発電原価で比較すると、全量再処理5.2円/kWh、直接処分4.5〜4.7円/kWh。この結果に対し、委員の大半は「大差ないじゃないか」と。確かにバックエンドコストだけ見れば、再処理は直接処分の1.7倍だけど、燃料費等のフロントエンドを加えた発電原価全体で見れば大した差ではない。標準的な一世帯あたりの年間電気代で言えば600〜800円、約1%の増加だ。原子力よりも高い火力発電コストのことも考えると、大騒ぎするほどのことではない。

とは言え再処理の場合、多少でも高くなるなら、それを払う価値はどこにあるのか。多くの委員が主張したのは、1番はエネルギーセキュリティ。現時点でウランは安いが、このままアジア各国でエネルギー需要が急増し、原子力開発が進めば、数十年先には価格高騰や資源枯渇を招きかねない。エネルギー自給率4%の日本にとって、長期的観点からウランやプルトニウムという「準国産エネルギー」を確保しておくことは、安全保障上、極めて重要だ。

環境適合性でも、再処理が勝る。なぜなら直接処分ではプルトニウムを日本の地下にそのまま貯め込むのに対し、再処理してリサイクル利用すれば、最終的に高レベル放射性廃棄物の潜在的有害度は1/8程度に減少し、処分場の面積も半分程度で済む。

さらに多くの委員が重視したのは、政策変更に伴うリスクや社会的受容性の問題だ。いったい現在の日本に、原子力のバックエンド施設を受け入れる自治体がどれだけあるだろう。それを考えれば、青森県六ヶ所村が再処理工場などの施設を受け入れてくれたのは非常に貴重なことで、地元住民をはじめ関係者の20年来の努力の賜だ。これをそう易々とご破算にしていいワケがない。
また使用済み燃料の中間貯蔵は、50年後には再処理のために持ち出すという条件で、施設立地の候補地を探している。再処理せず直接処分となると、中間貯蔵施設数は倍くらい必要になるのに、それを受け入れる自治体を見つけることはさらに困難となり、原子力発電所は運転停止に追い込まれかねない。万一そうなれば燃料費の高い火力発電で代替せざるを得ず、結局コストは逆転、再処理の方が安いことにもなる。今までの路線を変更することは、過去に築いてきた仕組みや技術をご破算にして失うことを意味するが、これによる損失やインパクトは、安定的に原子力を維持してゆくという大目標に対して軽視できるものではない。

会議ではこうした個々の項目について慎重に審議した結果、総合的に評価すると、最もメリットが大きいのは「全量再処理」という結論に至った。
言い換えれば、サスティナブル(持続可能)なエネルギー源の確保、循環型社会をめざす、放射性廃棄物はできる限り減らす、次世代に責任を先送りしない、といったことが原子力政策の理念なら、経済的には少々割高でも、やはり再処理リサイクル路線を維持するのが現実的・合理的であると結論したわけだ。

但し、この方針を全うするには、なおいくつかの課題がある。

第一は、現在試験運転中の六ヶ所再処理工場を、安全に、安定して稼働させること。これがきちんと稼働しないと「再処理の効用」は得られない。ただ、再処理工場は化学プラントだから、ポンプの故障、フィルターの目詰まりといった不具合は日常茶飯事。これは安全性を脅かす問題ではないが、こうした不具合が驚天動地の一大事のように取り上げられると、人々が不安になりかねない。マスコミにはぜひ冷静な報道をお願いしたい。

第二の課題は、中間貯蔵施設の確保だ。六ヶ所の再処理工場が順調に稼働しても、処理能力は年800t。一方、全国の原子力発電所から出る使用済み燃料は年1000t以上だから、余剰分はどこかに貯めざるを得ない。現在、青森県むつ市、福井県美浜町が中間貯蔵施設受け入れの意思表明をしてくれているので、これら地元の理解と協力を得ながら、速やかに整備を進めていく必要がある。

第三は、放射性廃棄物の処理・処分の体制や規制のあり方を早く確立すること。既に7割方は処分方法が決まっているが、残りを早く決めないといけない。

第四は、回収したプルトニウムを、円滑に、合理的に、透明性を確保しながら利用していくこと。現在、プルサーマルも高速増殖炉も、技術的問題というよりはむしろ制度や組織の問題として人々の不信感を生み、停滞しているのは非常に残念だ。高速増殖炉など、せっかく開発してきた技術を、不安と不信で捨てるべきではなく、次世代にこの技術を伝えてゆくべきである。国や事業者は「安全と安心の確保」を肝に銘じ、しっかり説明責任を果たすとともに、技術の継承も考えてほしい。

最後に電気事業者への要望を言えば、2005年の電力自由化拡大を控え、各電力会社は従来以上に経営的論理を重視せざるを得ない状況に置かれている。一方、原子力政策はまさに国家百年の大計。当然、事業者の経営論理とのズレは宿命的に存在するが、可能な限り整合をとってほしい。電気事業は国民生活のライフラインを支える、すごいビジネスだ。今後も国家百年の大計の担い手として、原子力という長期的な国民福祉に繋がる事業に前向きに取り組み、再処理リサイクルの実現に貢献していただけるよう、切に希望したい。■


関連資料

「『原子力長計・中間取りまとめ』のポイント」 関連図書 「『原子力』を読み解く12冊」


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