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山内 直人

2004.04.01
「『ソーシャル・キャピタル』『リレーショナル・アセット』という概念」

山内 直人


やまうち なおと
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授(公共経済学)
1955年愛媛県生まれ。大阪大学経済学部卒。経済企画庁、ロンドン大学大学院、経済企画庁調査局内国調査第1課課長補佐などを経て、92年大阪大学経済学部助教授、94年同大学大学院国際公共政策研究科助教授。のち教授。内閣府「ソーシャル・キャピタル―豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」調査研究会委員長。阪大にてソーシャル・キャピタル研究会主宰。NPOやソーシャル・キャピタルに関する著書や講演多数。

ホームページ>> http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/~yamauchi/

 


「ソーシャル・キャピタル」(Social Capital)という新しい概念が、いま世界的な注目を集めている。社会資本――ハードなインフラのことではない。コミュニティなり組織の豊かな人間関係や信頼、ネットワークの濃密さなどのことだ。同様の概念を経営学では、人間関係の蓄積・資産という意味で「リレーショナル・アセット」という言い方をしている。

現在のソーシャル・キャピタル(SC)研究に大きな影響を与えたのは、アメリカの政治学者ロバート・パットナムが1990年代以降発表した一連の研究だ。彼は、著作『Bowling Alone』で、近所の人と集うことなく一人で黙々とボーリングをする孤独なアメリカ人の姿に象徴させ、アメリカでのSCの衰退を明らかにした。ただ、彼はSCについて明確な定義をしておらず、いろんな解釈の余地を残したこともあって、多様な分野の人が注目し、今や学際的なコンセプトとしてもてはやされている。

例えば、OECDはSCと経済成長との関係を研究。企業間で契約を結ぶとき、互いの信頼が薄い社会だと全部書面にしないと安心できないが、日本みたいに同質的で「なあなあ」が通用する社会なら、契約コストは低く済む。信頼の有無が、ビジネスコストに関係しているのでは、ということだ。

また、SCが豊かな地域の方が政策効果が現れやすいという研究もある。イギリスやオーストラリアなどがコミュニティ政策として熱心に研究しているし、世界銀行は国際援助の効果の観点からSCを捉えている。SCが豊かな地域に重点的に援助した方が効率的との考え方も成り立つが、援助の基本哲学に関わるので、議論のあるところだろう。

卑近な例だと防犯・治安。地域で互いに顔見知りの社会なら、防犯コストは少なくて済むが、SCが崩壊すると、自警団を雇ったり警備会社を使うことが必要になる。アメリカのクリントン政権、ブッシュ政権もSCを重視し、2001年9月の同時多発テロ以降は、SCが豊かなら、隣人が爆弾をつくっていれば気付くだろうというような、治安面での議論を盛んに行っている。

あるいは経営学の分野では、一人ひとりの社員が持つ人脈やコネ、オフィス内の人間関係などがビジネスの成否に影響を与えるという点で、注目されている。

日本でSCが議論されはじめたのは、ここ2〜3年。1990年以降、長く経済が停滞し、手は尽くしたが良くならない。すると、通常エコノミストが考えるような要因とは別の何かが関係しているのではないか、とSCが注目されるようになった。経済停滞も、地域によって度合が違うのは、産業構造転換に乗り遅れたようなことだけでなく、SC、言い換えれば地域の持つ「コミュニティ力」が関わっているのではないか、という話だ。

日本の場合、昔から地縁社会で自治会や町内会があったが、都市化の進展とともに、それらが弱体化し、代わってNPOが登場。今後、SCの形成に市民活動が大きな役割を果たすのではないかと思われる。

このようにSCは多様な分野で注目されているが、パットナムによれば、SCには「ボンディング型」(結束型)と「ブリッジング型」(橋渡し型)がある。ボンディング型は同質グループ内の結束で、どちらかというと内向き。下手をするとナチスやオウムのように、極端に排他的になるおそれもあり、マイナス面もあるといわれる。一方、ブリッジング型は異質なグループをネットワークでつなぐようなタイプ。目的オリエンテッド、ミッションでの結びつきであり、NPOや新しいタイプのサイバーコミュニティなどがそれにあたる。

問題はSCをどう蓄積していくかだが、SCの蓄積を促進するための直接的な政策手段はあまりない。SCは、個々人の関係性の話なので、政府があまり言うと、おせっかいになってしまう。最近は、パットナム自身も「テレビばかり見てないで、もっと近所づきあいを」などと言ってるが、やっぱりちょっとおせっかいだ。

ただ、今後、例えば地域におけるSC形成を考えるとき、NPOなどの市民活動を促進する政策――NPO向けの助成金を出す、寄付税制を強化する、ボランティアを通じて他の世界の人とつきあえる機会を提供するといった政策が、SCの形成につながり、それがまた次の市民活動を誘発するという好循環を生んでいくと期待される。

一方、企業について言えば、これまではどちらかというとボンディング型が強かったのではないか。例えば企業間取引でいったん信頼関係が確立されると長期間うまくいくが、あとからその中に入り込むのは大変だ。また、あまりボンディング型が強過ぎると、企業が変な方向に向かったとき修正する人がおらず、結束を固めて不祥事をもみ消すケースも起こり得る。技術開発の場合も、同じような分野の技術者がチームを組んだのでは、サプライジングな技術開発にはつながらない。しかし、異業種の人との付き合いを奨励し、全く異分野の技術を自社に応用しようと考える人が一定割合いるようになれば、ブリッジング型SCが形成され、長期的にはそういう企業の方が強いかもしれない。

多様なつながりをつくるなかで、今後、企業はコミュニティとの共生、地域との関わりを継続的に進めることが大事になってくる。景気が悪くなるとやめてしまうのではなく、継続することが重要だ。CSRが注目されているように、コミュニティとの関係性維持は社会的責任(CSR)の一環だ。それは単なる社会貢献でなく、リスク管理の一環、長期的に企業活動を安定化させる保険でもある。地域とのつきあいは一度信頼をなくすと、取り返すのは非常に骨が折れるしコストもかかるわけで、企業はその辺をわきまえておいた方がいい。

最近、SCやコミュニティ力の地域別指標をつくりたいと考え、すでに試作品を公表している。かつて経済企画庁が作成した「豊かさ指標」というのがあったが、SCに関しても定量的な指標を出すことができれば、コミュニティ力の違いが一体どういう要素から成り立っているかがわかる。私が携わった内閣府の調査で初めてそれに着手したが、例えば、ボランティアとか市民活動を数値化すると、西高東低の傾向がある。またSCと起業率には正の関係があった。因果関係の検証はこれからだが、SC形成に関わるようなNPOなど市民活動をしている人は社会意識が高く生活態度もポジティブで、それがビジネスシーズの発見能力とも関係しているのではないか。そういう人が多い地域は、SCも豊かで、ビジネスチャンスを生かす活動も活発になるのではないか。

要は、自分の住む地域、所属する組織を今より良くするようなアイデアを出し、行動できるかどうか。リスクをとって異なる社会へ飛び込めるかどうか。そういう人の割合がどれだけ多いか、がSCの豊かさを決めると考えている。■


関連資料

「ソーシャル・キャピタル」の基礎知識 関連図書 『関係性』を読み解く12冊


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