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和田 秀樹

2004.03.15
「リスクの社会心理学――怖いと回避するよりも自分を信じてまず試行」

和田 秀樹


わだ ひでき 
精神科医
1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。東京大学付属病院精神神経科助手、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、日本初の心理学ビジネスのシンクタンク、ヒデキ・ワダ・インスティテュートを設立。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書『大人のための勉強法』『痛快! 心理学』『雑学力』『小3までに勉強グセをつける法』『部下のやる気を2倍にする法』『企業不祥事の心理学』『受験勉強の技術』など。2003年1月よりネットカウンセリングサイト『ココロクリニカ』開始。2004年1月より企業経営者向け会員組織『和親の会』発足。2月より『学力向上!親の会』発足。

ヒデキワダドットコム>> http://www.hidekiwada.com

 


リスクとは何か――それはある種の危険を感じることであり、何をリスクと捉えるかは個々人の置かれている環境によって異なる。

リスクを感じたとき、回避しようとする人間と、必要なコストだと考える人間がいる。基本的に日本人は、リスクを取ってまで、何かしようという人は少ない。だけど、リスク回避型だからといってコストを全く払わない訳ではない。人生のリスクは取りたくないから、受験勉強の苦労をしてでも良い大学に入る。学歴もなく勝負するよりは学歴社会の枠組みに入るとか、ベンチャーをやるよりは終身雇用の会社に入るとか。そういう形でのコストを払う気はある。

日本人のリスクを回避しようという感覚は、日本がどちらかといえば母性文化の社会だからではないか。長い歴史の中で、一時、儒教道徳とか、武家型の闘って勝ち取る文化の時代もあったが、ほんの短い間で、とりわけ戦後は儒教道徳も武士道もことごとく否定された。今回の自衛隊派遣も、それが国益に叶うかどうかより、人が死ぬかどうかに議論の重点が置かれていたのは、僕には、なるべくなら安全な人生をと願う母性文化型の現れに思えてならない。

但し、昨今の日本は急速に「リスクを取る」方に傾いている。国際貢献の問題をはじめ、企業経営にしてもハイリスク・ハイリターンを求めるなど、みんなでうまくやっていこうという社会から、リスクを取らない人間はダメだという社会に変わってきた。だけどその社会的圧力の背景には、アメリカの真似をしよう、というのがあるから、それを正しいものとして選択するかどうかは、今一度考える必要がある。

つまり母性型で育ってきた日本人の心理構造を急に変えることは難しい。リスクというのは、育った環境などによって一定以上のリスクは取りたくないという怖さみたいなものが、個人の心に刷り込まれる。加えて、マズローの欲望階層論で言えば、一番最初の生存欲求が満たされなければ――このままでは飢え死にだと思えば、人はリスクを取る。飢えるほど貧しい国は死ぬことさえをも厭わないから、自棄を起こすと何をするかわからない。最貧国が怖いのはこの点だ。

それに世の中、一つだけ変えてもうまくいかない。ハイリスク・ハイリターン型経営に変えるなら、ハイリスクによってストレスが増える社長にはメンタルヘルスシステムが必要だし、リストラをするなら、雇用の流動化を図るシステムや、やはりここでもメンタルヘルスシステムが要る。アメリカはハイリスクの一方でこうしたしっかりしたバックグラウンドのシステムがあるわけで、日本もみんながリスクを取る社会にするなら、それに合わせて社会的価値観や規範、システムも変える必要がある。

アメリカの真似はともかくとして、日本企業もリスクを取らざるを得なくなったことは確かだ。人口が減少し、買い手市場化が進むなかでは、何が売れるかわからない。気まぐれな買い手の心理につきあおうとすれば、商品開発はリスキーになる。もはや少々スペックを上げたり価格を下げるだけではモノは売れない。売れるかどうかわからないけど勝負に出ないといけなくなっている

そこで問題になるのはリスクの取り方だ。社運を賭けるようなバカなマネはしてはいけない。屋台骨を揺るがすのではなく、ここまでなら損をしても大丈夫という線をわきまえて勝負に出る。いわば失敗を前提にビジネスを行う。失敗を叱責するよりは、試したことを評価する、トライ&エラーの企業文化が重要だ。

そして、リスクを前提に、仮説と検証を重ねるような経営方針に変えないと、時代の変化にはついていけない。企業の体力とは、何回失敗に耐えていろんなことにトライできるか、ということ。要は、失敗したときに、すぐに変われる準備をしておくことが、最大のリスク管理になる。

ところが日本経済は長く右肩上がりが続いたので、リスクに対する認識がすごく甘い。これまでうまくいっていただけに、リスク認知を避けたがる。つまり自分に都合の悪い状況や失敗を認めたくないので、敢えてそれに目を瞑る認知構造――心理学で言うところの「認知的不協和」に陥りがちだ。しかし目を瞑っていることが、さらに大きなリスクを招くこともあるわけで、リスクは正しく認知しないといけない。

リスク社会――人間は、よくわからないことについては、不安に訴えられると弱い。不安を煽る方がプロパガンダとしては破壊力を持つから、安全・安心というメッセージは伝わりにくく、不安が蔓延してしまう。安全だとか身体に良いことはコロコロ変わるのに、身体に悪いことに関してはみんな根強く信じてる。今の時代に怖いのは、間違った認識がマジョリティになったとき、真実がねじ曲げられてしまうこと。大衆社会はそういう危うさを持っているが、そこで自分の不安な心理に振り回されず、もっと一人ひとりが自分で考え自分で動く。リスクを取らざるを得なくなった時代に、自分を信じてまず試行することが、何より重要だと思う。■


関連資料

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