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高市 早苗

2004.02.01
「国家リスクへの視点――情緒論に流されず毅然とした政治の勇気を」



高市 早苗

たかいち さなえ
元・衆院議員;前・経済産業副大臣(通商政策;産業政策;教育政策;税制)
1961年奈良市生まれ。神戸大学経営学部卒。松下政経塾に学ぶ。87年米国・民主党下院議員パット・シュローダー事務所のスタッフに。89年帰国。90年日本経済短期 大学専任教員。93年無所属で衆院議員に当選。通商産業政務次官、衆議院文部科学委員長、衆議院憲法調査会小委員長、自由民主党入国管理政策等に関する小委員長、小泉改造内閣の経済産業副大臣等を歴任。著書「アズ・ア・タックスペイヤー」「アメリカの代議士たち」「アメリカ大統領の権力のすべて」「新しい日本―サッチャーからの提言」「21世紀日本の繁栄譜」など。


国家にとってのリスクとは――私は常々、政治の最大の役割は「国民の生命と財産、国家の主権と名誉を守ること」であり、国家リスクとは、これらを脅かすもの、損ねるものすべてだと思ってきた。国会議員を務めた10年間も、この観点から政策判断、政策構築をしてきたつもり。でも、人もモノも金も情報も容易に行き交うボーダーレス社会はリスクだらけ。解決の必要な問題は山ほどある。

例えば「邦人保護」の体制づくり。日本人は「自衛権」といえば、外から日本が攻撃されることを想定しがちだけど、最近はむしろ国外で邦人が誘拐・拉致されたり、犯罪に巻き込まれた時が問題。アメリカをはじめ諸外国は、国内であれ国外であれ邦人の生命が脅かされた場合、これを保護するのは自衛権の範疇だと広義に解釈しているが、日本は狭義の解釈だから、なかなか的確に対応できない。そろそろ広義の自衛権についても議論した方がいい。

通商面では「知的財産権保護」も重要だ。特に最近問題になっているのが模造品や海賊版。この対策には私自身も深く関わり、2002年のAPEC閣僚会合で「知的財産権センター」の設置を提案した。これはAPEC加盟各国に事務所を設け、その国を訪れた人が自国の不正コピー品を見かけた場合、そこに通報すれば全加盟国に情報が流れ、法的手続もできるような監視体制をつくろうというもの。中国の反対で交渉は難航したが、翌2003年のAPECで採択され、各国に設置される見通しとなった。知的財産は日本の大切な資産だし、アジア諸国も工業化が進み、「明日は我が身」と思い始めた。これからもっと各国が協力して対策を進めることが必要だ。

国内に眼を移せば「治安」問題がある。かつて「世界一安全な国」といわれた日本も、近頃は犯罪が増え続け、手口は巧妙化・凶悪化し、検挙率は2割と低迷している。政府は今、外国企業の対日投資を増やしてもらおうとか、観光立国をめざそうという目標を掲げて頑張ってるけど、投資も観光も治安が確保されてこそ。治安悪化は経済発展の足かせにもなる。だから治安回復は喫緊の課題なのだが、人手不足がネックとなっている。例えば国内に約25万人ともいわれる不法滞在外国人を取り締まる入国警備官は、わずか1070人。1人で230人もの不法滞在者を探しに行って強制送還しなくては解決しない。政府は公務員の一律削減計画を進めているが、人手の必要な省庁もそうでない省庁も一律に削減するなんてナンセンス。もっとメリハリをつけ、必要なところにはもっと人材を投入しなきゃいけない。

加えて「犯罪を減らすのは警察や法務省の仕事」と考えず、全省庁を挙げて取り組むべきだ。例えば経済産業省が出してる商店街の振興金を防犯カメラの設置に使うことができれば、ちょっと遠回りだけど安全だから商店街を通ろう、という人が増えるかもしれない。治安対策はもちろん、人の流れが戻って活性化にもなる。国土交通省だって、公園などの公共施設をつくる時、死角のない、犯罪の温床にならない設計を考えるとか、住宅行政に防犯の視点を採り入れる。文部科学省なら子供たちに目配りがしやすい学校・幼稚園の設計とか、厚生労働省は公立保育園への防犯カメラや電子ロックの導入を検討する――それぞれの省庁が工夫すれば、治安回復のためにできることはたくさんある。

また、資源小国・日本にとって「エネルギーの安定確保」は大切なテーマだし、「食糧安全保障」にしても日本は今、トウモロコシの90%、小麦の80%以上をアメリカからの輸入に頼っているけれど、これはすごくリスキーなこと。アメリカは同盟国といえども、何かの問題で関係がこじれると対抗措置として「食糧禁輸」を平気で口にする国。私は実際にアメリカでそういう声が挙がるのを何度も見てきた。だから、たとえコストがかかっても、食糧自給率100%をめざすのが主権国家の役割だと思っている。

ところが、政策の必然性について、国民への広報が不足しているのが問題だ。エネルギー安全保障など、国会議員の中にも「原発なんか廃止して、新エネルギーを使えばいい」なんて言う人がいる。原子力発電を除くと日本のエネルギー自給率はわずか4%である。新エネルギーは1%だ。新エネルギーだけで日本のエネルギー需要を賄うなんて、30年後でも無理な話。だからこそ原子力が必要だとか、どんな安全対策を行っているとか、国や電力会社はもっとしっかり国民に伝えるべきだ。

国と国民の間に介在するマスコミの姿勢にも問題はある。数年前、アフガン難民を名乗る不法滞在者を当局が拘束し、調べてみたら、国籍も違うし、年に何度も出入国したり、口座に億単位のお金があったり、明らかに不審な点があったから強制送還することにした。ところが一部のマスコミが「可哀想だ、人権侵害だ」と騒ぎ、世論も情緒論に流れてしまう。でも考えてみてほしい。日本は法治国家だ。いくら「可哀想」でも、法を守らない人には毅然と対処しないと国家が成り立たないし、国民の安全は守れない。

エネルギーや食糧自給率の向上も本来コストをかけてでもきちんとやるべきなのに、国民は「安い方がいい」と言い、マスコミがそれを煽り、政治は世論に媚びて、選挙の争点にもできない。国民の生命・財産を守るため、これだけは必要です、それにはこれだけのコストがかかります、と言えない政治の勇気のなさ──もしかするとこれが日本の一番大きなリスクかもしれない。

こうしていろんなリスクを考えていると、最後は日本人の「心」の問題に行き着いてしまう。食品の安全や企業倫理の問題、インターネットの匿名性を利用して人を傷つけたり、損害を与えたり――私たちが直面しているさまざまな問題も、突き詰めればみんな、モラルの欠如から起きている。義務や責任は顧みず、権利と自由ばかり主張し、他人を傷つけ社会に迷惑をかけても平気。そういう日本人の心の変化こそが、犯罪を増やし、産業競争力を低下させ、国を危うくする。社会秩序が乱れたら、その回復にはコストが余計にかかることを、私たち納税者も理解しておきたい。

そう考えると、リスク対策として一番大事なのは教育。日本が大事にしてきた公徳心を育む「徳育」や、食の大切さを教え生産者への感謝の心を養う「食育」をきちんと行うことこそ、遠回りに見えて実は最も効果のある解決策ではないか。今のように、日本が本来持っていた秩序──家族の絆を大切にし、長幼の序を重んじ、感謝の気持ちを持って各々の役割を果たすという「当たり前のこと」すら教えず、子供の好き放題にさせてしまうと、必ず将来に禍根を残す。教育基本法改正の動きのなかで、ぜひ将来につながる骨太の議論をしてほしいと思う。■


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