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田中 辰巳

2004.01.15
「企業リスクへの視点
――何もしないことが罪になる時代」


田中 辰巳

たなか たつみ
危機管理コンサルタント;リスク・ヘッジ代表
1953年愛知県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。アイシン精機を経て、リクルート入社。秘書課長、広報課長、総務部次長(リスクマネジメント担当)、業務部長などを歴任。95年ノエビアに転じ、宣伝部長、社長室長などを務める。97年独立し、危機管理のコンサルティングを手がけるリスク・ヘッジを設立。マスコミ対策や圧力団体への対応などそれぞれのケースごとに具体的に助言する。著書「企業危機管理実戦論」「危機にあいやすい人の心理と回避術」など。


ここ数年、官僚や政治家、そして企業のトラブルや不祥事が目立つが、これは決して一過性の現象でなく、しばらく続くだろう。なぜなら、その背景には、戦後50年を境に現れた社会の歪みやほころびがあるからだ。新しい枠組みづくりへの過渡期ゆえ、さまざまな問題が起きているのが、この10年ほどの現象。企業を取り巻くリスクは、こうした大きな流れや風向きを正しく認識しないと見えてこない。

近年の流れとしてまず指摘したいのは、人々の権利意識の高まり、弱者がモノを言う時代になったということだ。企業では従業員による内部告発が増えているし、病院では患者や看護婦、教育現場では生徒や父兄など、かつての弱者によって不祥事が明らかになるケースが増えている。企業トップにしてみれば「従業員が勤め先のマイナスになることを何故いうのか」と思うだろう。しかし、年功序列・終身雇用制はすでに崩壊し、リストラが進んでいる。従業員にすれば一生勤めるかどうわからないから、問題があれば告発する。リストラが内部告発を促すという側面がある。

しかも、「罪」そのものも変質してきた。法律は従来、違法や過失行為を裁くものだった。つまり「やったこと」の罪が問われたわけだが、今は不作為、「やらないこと」の罪が問われる時代になっている。PL法も消費者契約法も不作為を問う法律だ。

さらに今後、司法やマスコミは、「誰の首を絞めればいいか」という視点を強めるだろう。例えばネットオークションで危険物が売られると、出品者でなくサイト主宰者が責任を問われる。主宰者の首を絞めないとサイトでの不祥事はなくならない、とみんなが思っているからだ。暴力団対策法改正の動きも、組長の首を絞めないと悪いことがなくならないという観点からだ。首を絞められるターゲットは、企業で言えば、大企業。従来、強者と呼ばれたものが攻撃にさらされる。トップ企業を叩けば、二番手以降もこれに倣うしかなく、一罰百戒を狙っているわけだ。

とりわけ今は過渡期なので、何がどこまで罪に問われるかは非常に曖昧だ。従来の判決に照らして大丈夫だと思っても、安心はできない。かつてグレーは「疑わしきは罰せず」だったが、今はグレーゾーンのものでも白と黒に厳密に分け、対処しないと危ない。

企業にとっては難しい時代だが、今こそ自らが置かれている状況をしっかり認識し、仮に強者であれば、間もなく自分たちの方に嵐がやってくると思って備えなければいけない。嵐が来たとき、いちばん確かな羅針盤になるのは、他社事例だ。他社事例を「対岸の火事」と見ず、「他山の石」にする。お詫び広告や記者会見、賠償の仕方などを見て、自分たちならどうするかを考える。企業の例ではないが、石原軍団が撮影中に事故を起こし番組の制作をやめると詫びたが、多くのファンがやめないでくれと言った。なぜなら、処分がものすごく速かったことに加え、「ファンを傷つけた私たちに番組をつくる資格はない」という言葉が、ファンの心を揺さぶったからだろう。そんな事例を自分たちに置き換え、疑似体験を重ねれば、危機管理は大きな失敗はしないはずだ。

危機管理は、危機を予防する「リスク・マネジメント」と、発生した危機を最小限に抑える「クライシス・マネジメント」に分けられる。リスク・マネジメントの基本は、きちんとまじめに社業に取り組むことだが、まじめにやっていても不作為を問われることはある。そこで、クライシス・マネジメントが重要になる。「過ちて改めざる。是を過ちと謂う」という孔子の言葉のように、日本では過ちを改めないと厳しく問われるが、改めることができれば許される。

クライシス・マネジメントの第一歩は、犯した罪にしっかり気づくこと。それには「反省」、つまり過去を否定的に振り返ることが必要だ。次に、起こしてしまった罪を深く「後悔」する。そして罪の告白、「懺悔(ざんげ)」を行い、最後に「贖罪(しょくざい)」、罪の所在を明らかにして処分なり賠償をする。反省、後悔、懺悔、贖罪という4ステップをきちんと踏むことが、クライシス・マネジメントの基本だ。

しかし実際は、クライシス・マネジメントに失敗する企業が非常に多い。
まず、自らの罪に気づかない。食品偽装問題など、企業トップの認識はせいぜいJAS法違反や不当表示程度で、食べた人の健康を脅かしかねないという罪の意識はない。後悔も「不祥事の露見」に対してであり、犯した罪を悔いてはいない。だから記者会見などで糾弾されることになる。お詫び広告を見ても原因が書かれてないことが多いように、懺悔もできておらず、挙げ句には後悔も懺悔もないまま、いきなりお金で賠償するケースもある。原因と改善策をきちんと示さないと、消費者は「この企業はまた同じことを起こすに違いない」と考えるのに、そうした基本的なことすらわかっていない企業が多い。

なかでも失敗が多いのは、記者会見だ。記者会見を糾弾会や株主総会と同じに捉え、予行演習をする企業もあるが、こんな愚かなことはない。記者会見とは無難に乗り切る場ではなく、社会的制裁を受ける場だ。だからトップ自ら犯した罪をきちんと認識し、肚を括って臨むべき。被害の拡大防止、再発防止、国民の知る権利に答えることの3つを使命にするマスコミに対し、会見の場で適切な情報開示をしなかったなら、彼らは使命を全うするために警察や検察など捜査機関を動かすかもしれない。そうなってしまうと企業は法的制裁を受けることになる。記者会見は法的制裁に持ち込まれないために、社会的制裁を受ける場だと思わないといけない。

2004年が明けたが、まだしばらく2010年頃までは何が罪に問われるかわからない時代が続く。罪そのものが変化するなかで、まずは社会の大きな流れを把握し、一方で小さな判例の一つひとつに目を通す。そうしながら、次に誰の首が絞められるかを見極め、自らの不作為の罪を予見すれば、危機は回避できる。

最近とみに増えているインターネット上での企業批判にしても、それを防ごうとしてはいけない。ネットに批判が出るということは、その企業のどこかが病んでいるということだ。病んでいるなら、直せばいい。ネット上の批判を「自社の健康診断表」のように見て、自ら変革する。それができる企業こそが、このリスク社会を勝ち抜いていくことになるだろう。■


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