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村田 晃嗣

2003.11.15
「『国益』への視点 ──国際社会の競争と協調のなかで」



村田 晃嗣

むらた こうじ
同志社大学法学部助教授(英米研究;アメリカ外交史)
1964年神戸市生まれ。同志社大学法学部卒、神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。91〜95年米国ジョージ・ワシントン大学留学。広島大学専任講師を経て、99年助教授。のち同志社大学助教授。第二次世界大戦後のアメリカ外交・日米関係と東アジアの安全保障など研究。著書「大統領の挫折」(サントリー学芸賞)、「米国初代国防長官フォレスタル」(読売論壇新人賞)など。


「国益」とは何か ──。日本を取り巻く国際環境の複雑化と、国内社会の多元化、つまり国民の関心の多様化のなかで、何を「国益」と考えるかは難しくなっている。しかし主権国家にとって、自国の生存や安全、繁栄の維持は基本的な「国益」であり、問題はそれをどのような形で実現していくか。つまり、大事なことは、これからの国際秩序がどういう方向に向かい、そのなかで何ができるかという視点で考えるべき、ということだ。

国家の外交政策の目標は大きく分けて二つあり、一つは、領土の拡大やGNPの拡大など「所有的目標」。もう一つが自国が居心地のいい国際環境なり、自分がリーダーシップを発揮しやすい国際秩序をつくろうとする「環境的目標」。とりわけ後者は、アメリカが得意で、日本は不得意な部分だ。

国際政治の歴史上、イギリスやアメリカなど覇権国は、環境的目標を明確に持ち、秩序形成能力に優れていた。日本はそういう大きな構想を持つことなく今に至っているが、そもそも国際社会への参入が明治以降であり、経験の乏しい新参者と考えれば無理もない。会社組織でも新入社員にいきなり自社の企業経営のあり方を論ぜよといっても難しい。しかし今の国際社会の中で、停滞しているとはいえ依然、世界第2位の経済大国であり、世界最強のアメリカと緊密な同盟関係を持つ日本は、国際社会を会社に喩えれば既に事実上の取締役会の構成メンバーになっている。そういう地位にある国が、係長や課長同様、自己の昇進しか考えないようでは、役員としての責務は果たせない。

その意味で日本が、今後国際秩序づくりに参画するにあたって大事にすべきは、「日米関係」の維持だろう。国際社会で圧倒的な国力を持つアメリカを抜きに安定した国際秩序はあり得ず、アメリカを軸とした国際秩序が、国際社会全体の利益になるような秩序をどう模索していくか。そのとき日本に何ができるかは非常に大事で、日米関係は日本が最初に考えるべき大事なことだ。それを対米追随だという批判もあるが、フランスにしろドイツにしろ、まず第一に対米関係を考えるわけで、どの国も対米関係を考えずに国際社会で生きることなどできない。「アジアとの関係」にしても、日米関係の安定してない日本はアジアにとって好ましくない存在だし、逆にアジアとの関係の安定がアメリカに対し日本の付加価値を高めることになる。

だから日米関係を堅持した上で、今後日本が国益、つまり日本にとって好ましい環境として主張していくことは、北東アジアの安全保障であり、国際的レベルでは大量破壊兵器の拡散防止や反テロ。また日本のような資源の少ない国からすれば資源・エネルギーの安定確保と、そのための国際的な貿易・通商体制の確保、さらに価値の局面では民主主義や人権擁護を主張していくことだろう。国連改革も、国連分担金の20%を近くを拠出しながら未だ安保理常任理事国になれない日本にとって、国益の問題であり、さらには国際正義の問題でもある。

但し、課題は多い。日本は外交の表現力が弱い。日本外交のパフォーマンスを国民にも諸外国にもよく見せる広報宣伝能力、表現能力が非常に弱い。それは日本の政治指導者の多くが英語を話せないことも無視できない要因だ。ヨーロッパや東南アジア諸国の政治指導者のほとんどは英語を共通のコミュニケーションスキルとして持っているが、日本ではそういう政治家がまだ少ない。

言葉よりも中身だと言う人もいるが、言葉がなければ論理は出てこない。十分な表現力や政治的ボキャブラリーを持たない国の政府から、豊かな発想や構想は生まれづらく、それは秩序形成能力ともつながってくる。英語に限らず日本語でも、どれだけ説得的に外交目標や外交政策を語れるかというと、どうも官僚的な答弁に終始しがちだ。日本が金持ちだった頃は、モゴモゴ言っていても、金を出せば当面のことは済んでいた。だけどポケットが不安になってきたら、なぜ払い渋るかを雄弁に説く能力がないと難しい。

それとの関連でもう一つ言えば、日本の官僚機構は「省益」や「局益」しか考えないと言われるが、僕は別に悪いことだとは思わない。例えば関西電力が自社のことを考えず、日本経済の再生ばかり考えていると、潰れてしまう。当面考えるのは自社の収益拡大であり、そのこと自体は間違っていない。問題はそれが地域社会の発展や日本経済の再生に全くつながらないこと。つまり局益が省益につながらず、省益が国益につながらないとき批判される。要は、外務省は自らの主張が日本の利益になることを、省益を超えた広い文脈で説明できるかどうか。国のレベルで言えば、日本の主張が自国のためだけではなく、国際社会の秩序や安定にどれだけ役に立つか、を説明できるかどうか。そこで表現能力が問われる。そういう表現力が全てのレベルで弱いんじゃないか。

ただ気をつけるべきは、表現能力だけでサブスタンスのない国になってはいけない。パフォーマンスがいくら上手でも、それに伴う地道なサブスタンスのない「はったり外交」はいずれ破綻する。だけど、黙して語らず、日陰で黙々と徳を積んでいれば、やがて世間は自分を理解してくれると思うのも甘い。そのバランスが大事で、表現力やパフォーマンスを身につけると同時に、日本が多様な場で積んできた地道な外交努力は今後も続けていかないといけない。

最後に言えば、日本ほど国際社会との関係性や安定性を重視せざるを得ない国はない。島国でありかつ資源小国であるなど、日本は物理的条件から日本だけでは食べていけないというシビアな現実がある。例えば、鎖国時代の日本の人口は約4000万。ということは、農業技術が進歩したとしても、日本国内で自給できるのは今の人口の1/3でしかなく、国民の2/3は外とのつながりの中でしか生きられない。国際社会と結びつき、相互依存の中でしか日本の繁栄はあり得ないというわけだ。そして相互依存のためには世界の安定が必要で、世界益なり公益と国益が重なる度合いが日本は高い。そこをはき違え、日本固有の国益の追求に走ろうとすると、逆に世界との協調を攪乱し、広い意味での日本の国益を害することになりかねない。偏狭な国益論に陥ることは実は日本の国益に一番反する、ということに我々はもっと自覚的であっていいと思う。■


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