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今村 英明

2003.10.15
「『自由化』と電気事業経営──変えるもの、守るものの見極めを」

今村 英明

いまむら ひであき
東京大学経済学部卒、台湾国立師範大学、台湾大学、スタンフォード大学大学院経営学修士課程修了。M.B.A. 三菱商事、世界銀行などを経て、ボストン・コンサルティング・グループ上海事務所長、ヴァイスプレジデントに就任。同社の組織、産業財、エネルギー各プラクティス・グループの日本地区代表も兼ねる。著書「電力・ガス自由化、勝者の条件」など。

ホームページ>> http://www.bcg.co.jp/


電力自由化も範囲が拡大し、電力会社の経営改革の方向性も見えてきている。1つは、つくったものを配るだけの「配給業」から、顧客ニーズを第一に考える「サービス業」への変化。2つ目は、かかったコストに適正利潤を加えて料金を設定する総括原価制度、いわば「足し算」のマネジメントから、マーケットで電気料金が決まり、そこからコストを引いて利益を残す「引き算」のマネジメントへの変化。3つ目は、規制に守られリスクのない安定的な企業経営から、リスクをマネジメントしながら着実に収益を上げるやり方に変えていく。

こうした変化に対し電力会社は、頭ではわかっているが、身体がついてきていない状況だ。

なぜ変われないかというと、まず、そもそも何のために存在するかという基本的な使命の部分で、明確な答えが出せていない。今までは全国津々浦々あまねく電気を供給する「ユニバーサルサービス」の提供と、資源のない日本における「エネルギー安全保障」が基本的使命だった。それが、自由化により、そうした公益的使命を外され、私企業としての利益追求、株主価値の向上という使命が前面に出てきた。

ところが必ずしもそれに頷けない。電力会社は公益性が大事だという人は今も多いし、私も正直、ほんとに完全に公共性を忘れて私企業の利益追求だけに向かっていいのか、と言われると、そうですと言い切れない。今の制度設計はとにかく自由競争で価格を下げる流れになっているが、じゃあ一体誰が日本のエネルギー安全保障を考えるのかについては、曖昧なままになっている。

また、配給業からサービス業へ変わるにしても、実は電力会社はお客さんのことをあまりご存じない。既に膨大な顧客データを持っているのに、一番大事なお客さんは誰か、なかなかスパっと答えられない。今、大口顧客でようやくある程度わかってきた段階で、それ以外の客に対しては、どんな業種のお客か、戸建てかマンションか、分譲か賃貸か――顧客を幾つかのグループに分けてニーズを分析するようなことをしてこなかった。そしてお客さまへのアプローチ、初回にどんな話をして、どんな宿題をもらい、2回目にどういう提案をするか、という営業のストーリィがない。ニーズ訊き出しのスキルも乏しく、ニーズを顕在化させてそれに合うサービスを提供するという一連のマーケティングには、まだ相当課題が多い。

さらに変革を阻むものとして、縦割り組織の問題がある。特に技術系は一生ずーっとそこで過ごす。電気という単一商品を供給する時代には、電気をつくる人、送る人、営業する人と分かれていてもいいが、事業が多角化し経営リスクも高まるなかでは臨機応変に動く必要があるわけで、縦割りで部門間に壁があると動きがとれなくなってくる。これを変えられるか。中高年の幹部社員にすれば縦割りの中で築いてきた自らのキャリアプランを放棄することにもなるわけで、組織を変えるのはかなり難しい。

そうはいっても意識の面で、本店のホワイトカラーはかなり変わってきた。間違いなくみんな競争を意識しているが、一旦本店を離れると、電力所や発電所はあまり変わっていないことに気づかされる。

しかし、そもそも全員が変わる必要があるのか。自由化されたと言っても、電力会社の仕事の8割は以前と同じオペレーション業務だ。つまり決められた作業をきちっとこなし事故が起きないように運転保守・維持管理するのが仕事だ。そこにクリエイティビティとか自由裁量を持ち込むこと自体、おかしい。効率化のための工夫や日々の改善はまだまだ必要だとしても、公益性を担うオペレーション部門で、過度に変革を強調するのは、私個人は賛成できない。

誤解を恐れずにいえば、今は改革の時だから、ある程度乱暴なことをしないと変わらない。乱暴なこととは、リスクをとって大胆に動くということ。営業やお客さまサービス、新規事業などは、もっとリスクをとってやっていかないといけない。但し8割は乱暴にせず、決められたことをきちっとやっていく。そこを誤解すると将来に禍根を残す。変革を言い過ぎると8割の部分が守れなくなるが、あまり守りを強調すると変えるべき2割の部分が変わらない。そこが経営者として匙加減の難しいところだし、腕の見せどころでもある。

その意味で、まず本店を徹底的に変え、次に営業所を変える。発電所や電力所はあとでもいい。とりわけ一番に変えるべきは、経営者自身も含めた上司の意識・行動と、評価制度だ。変革にはリスクがつきもので、リスクをとらせるには飴か鞭しかない。エリートが率先してリスクをとって果敢に行動することを評価するよう、制度を変えないといけない。

そして自由競争で勝つために、まずやるべきは徹底的な顧客理解だ。だから役員はみんな本店なんかにいないで、どんどん客を回って、客の声を聞く。産業用の客はニーズが割とシンプルで「価格」を口にするが、業務用はニーズが輻輳しているので難しい。それに対して、どうニーズを訊き出し、何を提案していくか。それを経営幹部が実感してもらわないといけない。幹部自ら出向きマーケットの声を実感するところからマーケティングがスタートする。

一方、流通部門は今、コストダウン一辺倒で、かなり元気をなくしてる。しかし、ユニバーサルサービスとか電力会社の公益性を支えるのは流通部門だ。だから経営者は流通部門に対し、公益性の砦として誇りを持って仕事をしてほしいというメッセージを送るべきだ。

往々にして本店は現場の上という意識を持ちがちだ。しかし営業所をはじめ発電・流通部門など「現場」をサポートするのが本店だと意識を変えた方がいい。企業変革の時代、対外広報も大事だが、社内のフェイストゥフェイスのコミュニケーションなしには、何も進まない。

電力自由化は欧米が先行しているとはいえ、たかだか10年。大きな流れでは間違ってないと思うが、最終的に正しい選択かどうかの結論はまだ出ていない。ドイツなど自由化で寡占化が進み電気料金は高騰し始めているし、アメリカはカリフォルニアやNYで停電が起き、日本では自由化時代の原子力のあり方がまだ詰めきれていない。とはいえ既に走り出した自由化という実験の中で、日本の電力会社も、手をこまぬいているわけにはいかない。何を変え、何を守るか――顧客の声を聴き、社内でのコミュニケーションを深め、変えるべきは変え、守るべきは守るということを、しっかり見極めながら進めてほしいと思っている。■


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