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鳥井 弘之

2003.09.01
「『原子力』への視点── 社会との親和性を考える」

鳥井 弘之

とりい ひろゆき
東京工業大学原子炉工学研究所教授;日本経済新聞社論説委員
1942年東京都生まれ。東京大学工学部卒、同大学院工学研究科修士課程修了。69年日本経済新聞社入社。編集局科学技術部、産業部、産業研究所主任研究員、「日経ハイテク情報」編集長を経て、87年論説委員、2002年より東京工業大学教授。エネルギー問題、環境問題、科学技術と社会の関係などを中心に取材・研究を続ける。原子力委員会専門委員、エネルギー調査会臨時委員など歴任。東京大学先端科学技術研究センター客員教授も兼務。著書「原子力の未来」、共著「『原発ごみ』はどこへ」など。



2003年8月14日、ニューヨークは突然の停電に見舞われた。アメリカ北東部とカナダで約5000万人に影響を与えた北米大停電――我々は今回の停電にしっかり学ぶ必要がある。浮き彫りにされたのは、送電系統の運用の重要性だ。日本での自由化の流れを見たときに、系統問題を含めて十分議論されているかについては、疑問を感じざるを得ない。今回の停電の原因は、まだ特定されていないが、自由化が進むことで電力供給の基盤が脆弱になるようなことがあってはならず、自由化は単に経済の理論だけではすまない問題だ。

今年の夏、停電が懸念されていたのは、NYでなく東京だった。今夏の東京の電力は、原子力発電所が止まり、長く使っていなかった火力発電所を再開させたり、他の電力会社から応援送電を頼むなど、相当コストもかけながら、供給力確保に苦心した。大停電の危機を、冷夏に助けられ、また電力系統の広域連携で凌いだ格好だ。

ともあれ今年の夏は乗り切った。多くの原子力発電所が止まったままで__。しかし、世界を見ると地球温暖化は深刻さを増している。世界中でCO2削減が課題になっているが、エネルギー消費の抑制は難しい。今や、どの駅にも設置されているエスカレータは、身障者やお年寄りが困るからつけた。街角の街灯は、女性が夜道を歩くのを守ってくれる。エスカレータも街灯もなければ、身障者や老人、女性の行動は著しく制限される。そうなってもいいんだと我々は言ってよいのか。途上国に対しても同様で、地球環境を守るため、途上国は経済成長を諦めろ、と言えるのか? エネルギー消費の抑制とはそういうことであり、温暖化問題の解決策は、今のところ原子力しかない。

そういう状況の中で、原子力技術と社会の親和性を考えると、電力会社と市民の側、両方が変わらなきゃいけない。

まず市民の側に求めたいのは、合理的に冷静に議論ができる知的基盤を持つことだ。東電問題が尾を引いて、原子力への逆風は止んでない。点検記録の改竄や報告義務を怠ったことは確かに問題であり、電力会社はその問題を真摯に受け止め、信頼回復に努めなければならない。ただ、現実レベルで問題はないと思われる軽微な事象まで取り上げて、大きく騒ぐだけというのは得策でない。もっと冷静に、合理的な議論ができる国でないと、何かことが起きるたび闇雲に怖がるだけになってしまい、非常に生きにくくなる。

最近「科学技術リテラシー」が言われるが、その基本は、
1.科学技術に不確実性はつきものだ。
2.数字には必ずウラの意味がある。例えば基準値にしても、薬は10倍の量を服用すると危ないが、放射線は発電所周辺の線量目標値の10倍の量を受けても支障はない。基準値の概念が違う。
3.失敗を許さないと成功もない。

そういう視点なり認識を、市民たちがもっとふだんから持てるようにしないといけない。合理的に議論ができる知的基盤としての「科学技術リテラシー」――国を挙げてそういう「常識」を子供の頃から植え付けていくことが、原子力の信頼回復には一番大事だと思う。

電力会社に対して言えば、電力会社は、原子力についてきちんと社会と議論してこなかった、と思う。その根底にあったのが「原子力は自分たちのものだ」という思い込み。独占的に自分たちだけがユーザーだと思っているようだが、自動車メーカーも通信会社も膨大なエネルギーを使っているわけで、もっと大企業が原子力を自分たちのエネルギーだと思ってもいい。

エネルギー問題は広くユーザーみんなの問題なのに、誰もが他人事としてしか捉えられず、当事者としての意識は希薄になってしまった。放射性廃棄物問題にしてもユーザーみんなの廃棄物だとわかってもらえばいいのに、そういう努力が足りなかったのではないか。原子力の安全の問題も、これまで日本の平和利用では放射線が人々に被害を与えることはなかったためか、その影響について十分に議論を尽くしてこなかったように思える。

私は最近、「安全」という概念を「安心」に変えるメカニズムを研究しようと思っている。原子力全体で見て、どう安全・安心を確保するか。電力会社はこれまで原子力安全について、多重防護を強調してきたが、むしろ地元の人が安心して発電所で働いていることを伝えた方がいい。「安全」は社会全体で考えること。しかし「安心」はもっとミクロな人の情報――自分は大丈夫だと思えることだ。毎年交通事故で1万人が亡くなっても、自分が事故に遭わないなら安心できる。安全というマクロな概念を、「あなた」というミクロな情報に置き換えて伝えることが最も重要だ。

電力会社も片や温暖化問題、片や自由化という問題を抱えながら、原子力に取り組んでいる。しかしエネルギーに対する国としての強い意志が感じられないのは残念なことだ。総合科学技術会議で情報やライフサイエンスなど重点4分野が打ち出されているが、エネルギーはその次でしかない。電気は十分に安定して供給されているので、みんな電気が大事だとは思えないわけだ。だけどそれは原子力も同じ。日本も戦争がないと平和ボケと言われるように、原子力にしても、安全性が高まると緊張感を保つのは難しいのかもしれない。

チェルノブイリ以降、地道に情報公開を行って、効果が出てきた頃に、もんじゅ事故やJCO、東電問題__何かが起きる。緊張感を保つにはなんらかの課題が要るにしても、これは強いジレンマだ。しかし「一病息災」――原子力は課題を抱えることでより社会に受け入れられるための努力を行い、市民の側も今夏のようなことになれば「電気がなくなるかもしれない」という緊張感で原子力を見る。そうやって互いに原子力と社会の親和性を高めていくことが大事だ、と私は思っている。■

関西電力の停電対策について(アメリカ大停電に関連して)>> http://www.kepco.co.jp/notice/blackout.html


関連資料

「原子力と社会」の周辺 関連図書 「原子力」を読み解く10冊


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