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足達 英一郎

2003.08.15
「『CSR』への視点── 企業の社会的責任を考える」

足達 英一郎

あだち えいいちろう
(株)日本総合研究所創発戦略センター上席主任研究員
1962年生まれ。一橋大学経済学部卒。90年株式会社日本総合研究所入社。経営戦略研究部、技術研究部を経て創発戦略センター上席主任研究員、ソシオ・インキュベーション・クラスター・マネジャー。アジア太平洋クリーナープロダクション会議理事も務める。99年からUBS日本株式エコファンドの企業評価担当。CSR、SRIの普及・市場創出に取り組む。経済同友会「市場の進化と21世紀の企業」研究会ワーキンググループメンバーとして「企業白書―市場の進化と社会的責任経営」作成に携わる。


ホ−ムペ−ジ>>  http://www.sohatsu.ne.jp/staff/adachi.html
  http://www.csrjapan.jp


「CSR」という言葉が一種の流行語のようになっている。それが「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility)と聞いて、日本企業が以前からやってたことじゃないか、と言う人は多いが、その今日的意味はもっと深い。

CSRが盛り上がったのは、ヨーロッパで2000年〜2001年。企業の社会的責任として従来、環境保全が言われてきたが、それ以外に社内的には従業員雇用、外に向かっては法令遵守、情報開示、顧客対応、途上国でのビジネス、地域への貢献など、非常に大きな範囲に一挙に広がった。

その理由を整理すると、まず第一に、グローバリゼーションに対する人々の不安感がある。ソ連・東欧という共産圏がなくなり、世界が一つの市場になってわかったことは、格差拡大とか犯罪増加、社会の安定性の喪失。日本ではバブル後の不況に隠された観があるが、欧米では市民レベルで非常に危機感が高まり、成長や競争、拡大でない、もう一つの価値が求められた。加えて欧州では、社会を構成するセクターで最も信頼度が高いのがNGOだという世論調査結果がある。企業にとってNGOの存在が無視できなくなったことも、CSR重視の背景にあり、NGOが行う企業評価などをグローバルに伝えるインターネット革命が、この状況を後押しした。

第二の要因は、そこにヨーロッパの政治状況が重なった。つまりEU統合。自己責任社会のアメリカと異なり、欧州では政府に一定の役割を求めがち。ところがEU統合時、各国の財政赤字を一定限度に抑える約束をしたことで、政府が税金で公共政策を打てなくなった。だったらCSRというキーワードで、企業に社会に目を向けさせ手を動かしてもらおう。雇用保障や環境保護、消費者保護など、今まで税金でやってたことを企業に肩代わりしてもらいたいとの思惑がある。

第三に、CSR推進に関する企業へのプレッシャーがある。
1つは株の世界からのプレッシャー、社会的責任投資(SRI=Social Responsible Investment)という流れがある。CSRの観点から企業を評価して投資先を決めようというものだ。このSRIの割合が株式市場の全時価総額の10%を超えた段階で、企業は何らかの株価対策を取らざるを得ない。CSR面で問題を起こし、NGOが騒ぐと企業の実力以上に株価が落ちる。そういうときに買収がかかるわけで、株価対策とは株価維持+乗っ取り防止の意味がある。

2つめはサプライチェーンからの要求。製造過程で長時間労働を強いるなどCSR上問題があると、不買運動が起き、小売店は大きな打撃を受ける。なので、川下側から、製品がCSR上問題がないかを厳しく問う。いわばグリーン調達のCSR版。問題があれば即取引停止となるため、強いインパクトを企業に与える。

3つめは優秀な人材の獲得。アメリカ型のヘッドハンティングで高い給料を提示して採用しても、もっと高い給料を提示されたらよそへ行く。最も人を定着させる手段は、社会から尊敬される企業になること。日本でも学生の就職観は、この5年間一貫して「楽しく働きたい」率は下がり、「人のためになる仕事をしたい」「社会に貢献したい」という率が増えている。

4つめ。今世界のビジネスモデルは、グローバリゼーションの中で二極分化。1つは国境のない価格競争に真正面から立ち向かい、コストダウンの工夫で勝ち残っていくビジネスモデル。もう1つは、環境配慮、顧客に誠実、従業員を大事にするといったCSR重視で、高くても買うファンをつくるという高付加価値戦略だ。実際、日本でも、商品の価格・性能で買うか、企業の社会的責任などを重視するかの調査で、3分の2は社会的責任重視という結果になっている。

このように、ステークホルダーの力が大きくなったところに、政治状況と企業戦略として4つのプレッシャーが加わって、欧州でCSRが注目されてきた。

一方、日本の現状を見ると、経営者アンケートでは、米国型資本主義は行き過ぎの面もあるという人が89%。CSRの重要性への共感は強い。欧州との違いは、向こうは企業の外からのプレッシャーでCSRが始まったが、日本はむしろ、日本企業がこれまで培ってきた良さをどう継承していくかという観点で、CSRを経営者の側から率先して捉え直している面がある。

日本企業にとってCSRは、さほど新しいものではない。もともと日本には、住友の家訓「浮利に趨らず」、近江商人の「三方よし」など、CSRの核がある。日本企業の家族的経営には諸外国から批判もあるが、社会・家族・企業という3つが重なり、安定につながっている面がある。そういう日本の成功体験の中で残すべきものを冷静に見ることが、日本企業のCSR戦略の第一歩だ。

但し、日本でのCSRの定着には「市場の進化」という概念が必要だ。今までは供給側が圧倒的に強かったが、需要側主導へパラダイムが移るなかで、市場からの情報をいかに読み解くか。これからの企業は、マーケットから鍛えられないといけない。NGOが企業に反対のメッセージをあげたとき、従来はどう押さえ込むかを考えたが、今後はそれを糧に自らを鍛え、製品やサービスという形で市場に返す。そのキャッチボールで互いに良い刺激を与えあえば、ポジティブフィードバックの形になる。それが市場の進化。鍛えあう市場を早く創った経済圏が、最も競争力を持つ経済圏になる。

そのとき日本の弱さは、企業を鍛えるNGOや市場、成熟した市民の存在が薄いこと。これが最大の課題だ。電力会社のように原子力問題を巡ってフロントで鍛えられる環境にあることは喜んでいい。ヨーロッパでもCSRに優れた企業は、みんな高い授業料を払って鍛えられ、今やNGOに資金を提供してまで企業批判をさせたりしているが、日本はまだ批判勢力を育てるには至っていない。またアメリカでは「ものをいう株主」が増え、テーマがコーポレートガバナンスから社会、環境に広がり、CSR批判が増えている。この波は早晩日本にやってきて、5つめのプレッシャーとなる。

日本ではCSRというと、メセナやフィランソロピーを想起する企業が多いが、本来もっと戦略的なもの。企業と社会の持続的な相乗発展であり、自主的な投資だ。欧州では下手な規制を負わされないよう、企業の社会的責任として、お荷物を背負ってでもやる姿勢を打ち出すなど、戦略的にCSRに取り組んでいる。企業にとってはあれこれしんどい世の中になるが、そこで鍛えられ、力をつけた企業こそが、21世紀に生き残っていくに違いない。■


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