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山本 容子

2003.07.01
「『アート』への視点──
  時代・風土・創造性」

山本 容子
山本 容子

やまもと ようこ
銅版画家
1952年埼玉県生まれ、大阪育ち。京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。抜群の構成力と印象的な色使いで独自の銅版画の世界を確立。油彩、水彩、エッセイ集、絵本等で創作を発表するほか、CM出演、CD制作まで幅広いメディアで活躍し、近年ではパブリックアートやプロデュースのジャンルも手がける。『TUGUMI』の装幀をはじめ、近著として『わたしの時間旅行』など著書多数。

2003年7月2日―10日大阪で個展を開催 (本誌『講堂』でも紹介)


ホームページ>> http://y-yamamoto.cplaza.ne.jp/


今春パリで個展を開いた時のこと。パリでは人々の日常に自然な形で芸術が入り込んでいる。だから私の個展を観に来てくれたおばあちゃん、初対面なのに「この色はどうやってつけたの」「この紙はどういう紙なの」と質問攻め。習いたてのフランス語で一生懸命説明したけど、わかってもらえたかしら。「作品は誰かに観てもらって初めて完成する」と思ってる私には、とても嬉しい出来事だった。

残念ながら日本人は、なかなかフランクに喋りかけてくれない。文学、音楽、映画、演劇__他の芸術なら割とみんな「マイ・テイスト」をフランクに喋るのに、美術だけはなぜか苦手意識が強く、難しいとか、わからないと遠ざかりがち。子供の頃はみんな絵を描くのが大好きだったはずなのに、学校で点数をつけられると、途端につまらなくなってしまう。

教科書的な知識はあっても、きっと出会いがないんだと思う。もっと「本物」を観てほしい。絵の大きさや筆のタッチは、本物を観ないとわからない。キャンバスの端っこの絵の具の跡を見れば、色づけの順番もわかる。そんなところにこだわって眺めれば、キャンバスの前で画家が過ごした時間を追体験できる。一枚の絵から得られる情報は、とっても多い。

私自身、7年前に人類最初の絵画「ラスコーの洞窟壁画」をナマで観た時は、いくつもの「発見」をした。例えば色は黒、赤、黄の3色しか使われていないこと。でも3色を混ぜ合わせ、とてもカラフルに仕上げてる。真っ暗な鍾乳洞の中で、どうやって描いたのかも不思議だったけど、石の器に鹿の油を入れ、蝋燭のように灯して描いたみたい。いろんな動物が描かれていて、一番大きいバイソンは5メートルくらい。あれだけ大きな壁画を描くには、一体どれほどの数の灯りが必要だったんだろう? そんなことを想像するだけでもワクワクする。

例えば、「灯り」という切り口で絵を観ていくのも面白い。絵という「文化」を、灯りという「文明の歴史」で辿ってみると――ラスコー壁画が描かれた2万年前は鹿の油で絵を描いた。ルーヴルの昔の絵が暗いのは、暗い建物の中で暗い光で描いたから。1300年頃は蝋燭で、1500年頃ランプが現れ、19世紀にゴッホが描いた黄色い灯りはガス灯で、20世紀に電気が現れるとガラッと明るい絵になってくる。そんなふうに、灯りの歴史、乗り物の歴史、旅の歴史とか、何か自分が興味のあるテーマに沿って、複眼的に見ると、絵はもっと身近になってくる。

今でこそ美術に苦手意識を持つ人が多いけど、もともと日本人は素晴らしい創造性を持っていた。江戸時代の浮世絵なんて、当時の人にとってはたかがマガジン。でもその中で北斎や広重はあれだけの技法を編み出し、ゴッホをはじめ世界のアーティストに影響を与えた。それほどオリジナリティの高い創造性を、日本人は持っていた。

ただ明治以降、特に第二次大戦後の日本人は、芸術を鑑賞したり、評価する余裕を失った。早く豊かになりたいから仕事仕事で忙しく、江戸時代の人たちのように、ゆったりと流れる時間を楽しんでこなかった。クリエイティビティ自体が失われたわけではないけど、評価する眼を養う時間を持てなかった。

でも最近になってようやく「時間」の価値が見直されてきた。ちょっと余裕ができたから絵でも観ようとか、本でも読もうとか。これって、とてもいいことだと思う。だって人生は一度きり。今日という日は二度とない。だったら少しでも豊かに生きよう。「絵は分からないから苦手」なんて言わないで、いろんなことに興味を持ち、今日はこれ、明日はこれと、いっぱい選択肢を持ってる方が楽しい。

芸術は、音楽も文学も美術もすべて通底して一つの世界。私の場合はたまたま絵――版画で表現してるだけ。絵だけ描く「絵馬鹿」なんてあり得ない。クリエイティブはイマジネーション。いろんなものに日々刺激を受けて、新しいものを生んでいく。芸術家は田舎もんになってはダメ。

私自身も絵はもちろん、映画も好きだし落語にもハマってる。我ながら好奇心旺盛、悪くいえばミーハーだけど、これは、30歳まで過ごした関西で培われた。よく「ノーベル賞は東大より京大」と言われるけど、あれも関西の風土と無関係じゃない。京都には──少なくとも私が学生の頃の京都には、イマジネーションをかきたてる何か、一気に2〜3段階とんだ発想を生み出す風土があった。いろんな人と出会い、刺激を受け、感性を磨くことができたと思ってる。

東京は理路整然と一直線に邁進するイメージだけど、関西人はあっちへ寄り道、こっちへ寄り道、蛇行しながら進んでも、「おもろいからええやんか」と受け入れる精神的な逞しさを持っている。そんな環境で育ったことを、私は誇りに思ってるし、今も「ハートは関西人」。

そして私の務めは、「今」という時代を後世に伝えること。絵には時代時代のメッセージが込められてる。山本容子は今しか描けないものを描いている。すべて芸術は才能の発露であると同時に、時代の証言者としての役割を持っている。クリエイティブをやっている人は、みんな時代の証言者。だから私は銅版画を描くだけでなく、制作過程のビデオも撮る。それがアーティストとしての務めだと思っている。

だからとにかく本物を観てほしい。間近で見れば、新しい発見があるし、どんな途方もないことでも、それは実際に人間がやったことだと実感できる。それがすごい。みんな何でも知ってる顔をしてるけど、ほんとは何も知らないことに気づかされる。絵を通して時代を観ていくと、絵はすごく身近なものになってくる。私の絵も、「今」という時代の証言者として山本容子が何を伝えようとしているか、まず同時代を生きる人に観てほしい。■


関連資料

「Yo.Yamamoto」の基礎知識 関連図書 「芸術」を読み解く12冊


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