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上山 信一

2003.06.01
「『関西復権』『関西再生』の固定観を捨てよう!
 ──成熟時代への決断を」

上山 信一

うえやま しんいち
米国ジョージタウン大学教授;大阪市立大学大学院創造都市研究科教授(公共経営専攻)
1957年大阪市生まれ。京都大学法学部卒、プリンストン大学ウッドロー・ウィルソンスクール公共経営学修士修了。運輸省、外務省(出向)を経て、86年マッキンゼー入社、92年共同経営者。2000年より米国ジョージタウン大学研究教授、2003年より現職を兼務。専門は企業戦略、経営改革、行政改革。大企業、ベンチャー企業の社外役員、顧問のほか政府の各種委員を務める。著書に『政策連携の時代』『行政の経営改革』、共著に『自治体再生戦略』『自治体DNA革命』などがある。


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私は大阪で生まれ育ち、成人後は、もっぱら東京とアメリカで暮らしてきた。今春、20年ぶりに関西へ復帰した。大阪市大が都市再生のために社会人大学院をつくるという。熱心なお誘いが私の中の大阪人のDNAを目覚めさせた。ところが、赴任してみて驚いたのは、いまだに「関西復権」や「関西再生」がうたわれていることだ。関西は、私の少年時代以来、かれこれ30年以上も「復権」と「再生」を唱え続けてきた。その間、いっこうに事態は好転しない。そもそも課題の立て方自体が間違っているのではないか。

「再生」はまだしも、「復権」という言葉には全く戦略性が感じられない。大阪人の東京への対抗意識は否定しない。だが、いかにも知恵がない。東京はますます特殊な「上げ底都市」になりつつある。繁栄の基盤は危うい。東京には世界的なデフレ、金余りの中で、海外からさまざまなアブク銭が入ってくる。また、地方都市が弱体化する中で、資金や人材の待避所としてのにぎわいを呈しはじめている。最近、続々とオープンする港区の再開発プロジェクトも成否は不明だ。沈滞する関西に比べると一見はなやかだが、企画されたのはバブル期。それが軒並み、遅れて完成した。メディアに登場する「元気な東京」や著名人の姿は氷山の一角でしかない。水面下の「普通の東京」はさほど景気はよくない。その証拠に都心を離れると失業や犯罪が急増している。

長期的な都市経営の観点からは、私は関西より東京の方がリスキーだと見ている。なぜなら東京は、地方の若者をどんどん受け入れ、彼らの労働と消費に依存してきた。今後、若者が減少すれば一気に逆サイクルに陥りかねない。空き家が急増し、商業も損益分岐点を一気に下回る。ヒトの一生にたとえれば、若い頃の不摂生がたたり中年になっていきなり大病発症、という感じか。これに比べれば、関西は「一病息災」。いつも、具合が悪いとぶつぶつ言うけれど、案外しぶとく持ちこたえるのではないか。関西は成熟経済の時代に向けた準備ができている。

今の関西の失業率の高さや中小企業の不振は確かに問題だ。だが、これは西欧や米国の多くの産業都市が70年代から80年代にかけて経験してきたことだ。ヨーロッパではリバプールやグラスゴー、ビルバオなど、米国ではクリーブランドやバルティモアなどかつての「煙の都」は軒並み、衰退を経験した。だがリバプールはビートルズを生み出し、グラスゴーは北欧の人たちにとってのベニスと呼ばれるほどの観光地になった。ビルバオはニューヨークのグッゲンハイム美術館を誘致し、文化都市への転換を果たした。

日本の大都市も成熟都市へのパラダイム転換を図る時期を迎えている。産業都市の繁栄期に蓄えたアセットを使って、したたかに成熟していく。いわば「豊かなる衰退」のあり方が問われている。なかでも京都、大阪、神戸の3都は、日本の大都市のなかでもその流れの先端に位置する。なのに、なぜ「復権」や「再生」といった高度成長期のスローガンにしがみつくのか。バイオやファッション、メディア関連などの新産業の育成は、もちろん必要だ。だが、そこには過去の技術や知識の集積をうまく活かした独自の創造性が欲しい。ハイテクをてこに欧米にキャッチアップし、産業構造の転換を図り、首都圏を凌駕しようというステレオタイプの発想は捨てるべきだ。

空虚な新産業待望論は横に置き、関西の各地を実際に歩いてみる。すると若者たちが各地で実験を始めている。鍵となるのは「文化」と「地域力」の掘り起こしだ。たとえば大阪市内では平野地区の街ぐるみ博物館をつくった人たちや町家再生に取り組んでいる人たちがいる。彼らは「関西復権」なんて大袈裟なことは考えない。自分たちが愛する地元を何とかしたいという思いで動く。だが、そこに行政機関や大企業が思いもよらないしたたかな工夫とボランタリーなエネルギーが生まれている。彼らこそが、これからの関西の担い手だ。

そもそも「関西」を全体としてどうするか議論して答が出るような時代ではない。活性化は十三周辺(大阪市)とか、北白川(京都市)といった小さなエリアで考える。地域で豊かな生活と文化が花開けば、才能のある人材が全国から関西に戻ってくる。外国人もやってくる。やがて企業も元気になる。生活、地域の魅力づくりが先決で産業振興はあとで考えればよい。もともと関西、特に大阪は「雑木林」経済の街。ごちゃごちゃといろんなものがあって、サービス業を中心に経済が回ってきた。都市経営でも「大木」的な新産業の育成を夢見たり、公共事業を頼りに食いつなぐという発想は捨てる。住人がさまざまな創意工夫を発揮し、地域の中で元気な生態系が循環する雑木林を育てる。

肝心なのは地域で活躍する「人材」、そして地域を越えた彼ら同士のネットワークの広がりだ。いきなりグランドデザインとか都市計画ではない。各地の具体事例の集積が地域力を掘り起こすヒントになる。われわれは地に足のついた関西各地での取り組みをもっと知るべきだ。社会実験としての成功例と失敗例の分析、共有化をする。そして各地の現場に埋もれている若くてエネルギッシュな人材を発掘し、市長や知事、議員など政治のリーダーに据えていくべきだ。

繰り返すが、今こそ「関西復権」や「関西再生」といった手垢の着いたスローガンを捨てるべき時期だ。抽象論ではなく具体目標を設定する。たとえば、働く女性の数を増やす。犯罪や自殺者の数を減らす、といった等身大の目標を地域ごとに立てる。プロジェクトも分かりやすいものがいい。要らなくなった小学校を改造してクラフトスタジオにするとか、ビルの空室、空いた土地など遊休資産を活かす。既存の業界や地元の有力者に任せず、若者、女性、外国人などの発想を借りる。改革の原点は固定観を覆すことにある。勇気を出して全く無名の活動家、若い人材、女性、外国人に任せてみる。

80年代以降、西欧社会は経済の成熟、都市の衰退に直面した。しかし大胆な発想転換をやってのけた。ソ連の解体やユーロの誕生はその典型だが、地域レベルでも過去との訣別が進んだ。例えば印象派コレクションで有名なパリのオルセー美術館は、駅舎を転用した。駅はかつて上流階級がバカンスに出掛ける拠点だった。印象派の画家たちを支援したのも彼らだった。時代が変わり、主役も替わる。かつての上流階級のシンボルだった鉄道駅で、いまや世界中の観光客、地元の市民たちが絵を楽しむ。おかげでパリのホテル、飲食、ブティックなど雑木林産業は隆盛を保っている。産業として衰退した鉄道を捨て、その遺産を文化産業のエンジンに変えた。見事な都市経営の戦略だ。

今こそ、関西は過去の栄華と訣別する。実体のないプライドや東京への対抗心は忘れよう。また東京のメディアが強調するコテコテの大阪のイメージとも訣別する。記号化された「関西商法」とか「もうかりまっか」という言葉に安易に安住しない。関西文化はそんなに浅はかなものではない。むしろ手塚治虫、梅棹忠夫、司馬遼太郎、会田雄二そして谷崎潤一郎らが体現していたヨーロッパ的な落ち着いた市民文化、そして江戸時代以来の船場上方文化を再構築する。あれこそが関西の豊かさの象徴ではないか。

チェコのプラハが参考になる。プラハは戦後、東側に属し産業化が遅れた。であるが故に、ハプスブルク家の統治時代の文化財が豊富に残る。いまも人びとのライフスタイルは洗練され、フローの所得は高くないが民度は高く、落ち着いた市民生活を楽しんでいる。関西も似たところがある。都心や湾岸部を除けば、バブル経済の恩恵をあまり受けなかった。おかげで各地に高度成長時代以前のゆとりや気概が残っている。それこそが関西の魅力であり、財産だ。

いま、世界的にスローライフが注目を集めている。人々は目先の収入よりも生活の豊かさと日々のゆとりを求め始めた。こんな時代こそ関西にふさわしい。江戸、明治以来の膨大な文化の蓄積をもう一度掘り起こすべきだ。それをきちんと再構築し、世界に発信していく。成長・復権ではなく、成熟・バージョンアップをめざす。東京のことは意識しない。むしろ地域、現場のリーダーを大事にする。それができれば、関西は21世紀のルネサンスの担い手になれるはずだ。■


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