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川合 知二

2003.05.15
「超微細──
   『ナノテクノロジー』が拓く世界」

川合 知二

かわい ともじ
大阪大学教授;産業科学ナノテクノロジーセンター長(物理化学;材料科学)
1946年横浜市生まれ。東京大学理学部物理化学科卒、同大学院理学研究科物理化学専攻博士課程修了。81年米国カリフォルニア大学バークレー校留学。分子科学研究所助手を経て、83年大阪大学産業科学研究所助教授、92年教授、2002年同大産業科学ナノテクノロジーセンター長。主な著書『ナノテクノロジー―極微科学とは何か』『ナノテクノロジー入門』など。「関西ナノテクノロジー推進会議」次世代バイオチップ開発研究会リーダー。2003年紫綬褒章受章。


研究室


ナノテクノロジーは、突然現れた技術ではない。時代の必然だ。
科学技術の進歩を見ると、50年ほど前から「小さくする」という大きな流れがあった。典型的なのが半導体。LSIやDRAMなど、集積度がどんどん上がり、50年前には5cm角に1個しかトランジスタが乗らなかったが、今は10億個、ギガビットの時代だ。トランジスタを10億個乗せるには、部品をナノ(10億分の1)メートルまで小さくする必要があり、ナノの世界が大事になってきた。これがトップダウンという動きだ。

もう一つ、ボトムアップという動きがあって、これは電子や原子を組み上げて、より複雑なものを創る技術。昔は硫安など分子レベルだったのが、高分子や超分子、タンパク質、DNAなど比較的大きなものが扱えるようになり、下からも技術が上がってきた。

そういう2つの動きがちょうどミレニアム2000年に一挙にナノメートルのところで凝縮し、新しい技術成果がばーっと飛び出し始めた。だからナノテクは新しい技術ではなく、むしろナノという単位が大事だと認識されるようになっただけだ。

僕たちの世界は僅か100種類に満たない原子で構成されているが、原子サイズでは何の機能も持ち得ない。原子を10個、50個と集め、ナノスケールになったときDNAができる。DNAの塩基配列を変えると僕たちの身体は全く違うものになるように、ここの制御次第であとは全て決まる。つまりナノメートルの世界こそ根元的な世界ということだ。遺伝子プログラムに基づいて自己組織化がなされる人体が、究極のナノテクノロジーと言われる所以でもある。

ナノテクには第1世代〜第3世代まである。
第1世代のナノテクは、既に身の回りに溢れている。例えば10年前の携帯電話を思い出して欲しい。あれほど重く大きかったものが、今や薄く小さくなっただけでなく画像まで写して送れるようになった。それを可能にしたのはナノメートルで細工された電子部品だ。あるいは化粧品。20年ほど前の化粧品は白粉という粉っぽいイメージがあるが、今は透き通ったイメージ。粒子がナノメートルまで小さくなると、光が反射せず透過して透明感が出る。ここ数年、女性が急に綺麗になったように見えるのは、ナノテクのおかげ。僕らはもうナノテクに囲まれていて、ナノテクなしでは産業も生活も成り立たないほど、身近になっている。

とりわけ環境やエネルギーは、ナノテクが最も寄与する分野だ。例えば高変換効率の太陽電池を安く創るには、高価な半導体技術を使うより、自然にものが組み上がる自己組織化技術を使い、ナノ表面加工を施す。あるいは環境分野で公害物質の除去も、ナノメートルの大きさの穴をあけて濾過する膜を使うとか。環境を綺麗にしたり、エネルギーの変換効率を高めるには、材料やシステム技術の革新が不可欠で、ナノテクなしにはやっていけない。環境・エネルギーはナノテクが最も現実的に産業やビジネスになる領域であり、これは第1世代と第2世代の間くらいに位置づけられる。

第2世代になれば、部品はさらに小さくなり、多様な機能がより巧妙に組み合わされ、利口になっていく。知的センサー、いわゆるヒューマンインターフェイス技術が発達し、ロボットはより知的になり、自動車も進化する。医療分野でも、薬を患部だけに届ける、ピンポイントドラッグデリバリーが進む。これが2〜3年後から10年以内。さらに10〜20年後、第3世代になると、クリントン前大統領が掲げたように、角砂糖1粒に国会図書館の情報を全部入れるといったことが実現する。

進化するナノテクノロジーが、IT、環境、バイオ・医療、材料、そのどれをも根本的に変えていく。

ナノテクの時代になったことは日本にとって最大の福音だ。
今の日本の輸出額は約50兆円で、うち30兆円くらいを高品質の自動車や機械、電子部品などで稼いでいる。そんなに質の良い製品をつくっているにもかかわらず、国内では不況だと言って消費者は財布の紐を固く閉じている。だけど、これは心理的なものなので、自信を持てば変わる。

ナノテクは日本人が自信を持てる重要な科学技術だ。ナノテクは日本人の気質に合っている。昔から小さいものを創るのが得意で、それを着実に製品に反映させてきた。もともと日本の科学技術水準は高く、生産技術も優れている。ナノメートルまできちんと制御された材料を使い、ナノメートルの加工もきちんと施した、高品質の製品づくりこそ日本の得意分野だ。ナノテクという基盤技術を、材料や電子部品、機械の組み立て、医療などに適用し、「日本の技術は凄い、これで将来も日本は世界で勝っていける」と思えば安心感が出る。そのためのキーテクノロジーがナノテクだと思ってる。

実は他の分野ではなかなか勝つのは難しい。情報技術は、ゼロを発見したインドに勝つのは難しいし、バイオもアメリカとはかなり差がついてる。だけどバイオを発展させるにもナノテクノロジーをうまく使えば、俄然強くなる。

関西にとってもナノテクは大事。まず、ものづくりを高度化する切り札になる。普通のものづくりでは中国とのコスト競争に勝てないが、加工精度や材料組成の精度を上げ、ナノメートルで制御されたものづくりを行っていく。もう1つ、関西の強みであるバイオや環境を産業につなげるときにも、ナノテクが重要になる。普通のバイオはアメリカに勝てないが、ナノスケールで身体でおきてることが観察できれば、新薬開発がぐんとスピードアップする。だから関西は古いかたちの産業に固執しない方がいい。単なる古いものづくりでなく、それをベースに高度化したり、ナノとバイオ、ナノと環境を結びつけ、新しい産業の芽を探すことが関西の方向ではないか。

幸い日本のナノテクは世界トップクラス。ナノと材料が現実最も強いが、次のステップとしてはナノとIT、ナノと環境、ナノとバイオという融合領域をうまく進めることが大事だ。ナノテクは日本にとって、また関西にとっても「元気の素」なのだから。■


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