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2003.02.01
『エネルギー文明』への視点──
  日本の固有性のなかで

新井 光雄

あらい みつお
読売新聞編集委員
1943年栃木県生まれ。 東京大学文学部卒。67年読売新聞社入社。経済部記者、ブリュッセル特派員などを務めた後、解説部記者としてエネルギー問題を専門に担当。のち現職。総合資源エネルギー調査会委員などを兼務。著書『エネルギーが危ない』『電気が消える日』など。


1973年の第1次石油ショックから今年でちょうど30年。この30年間、一記者として、つかず離れずエネルギー問題と向き合ってきた私にとって、近年の日本の状況は異議を唱えざるを得ないところが少なくない。

2度の石油ショックを通じて日本は、エネルギーは価格よりも安定が大切だと痛感し、安定供給をめざして、「脱中東」「脱石油」「日の丸原油確保」──つまり自主開発原油の確保、そして「石油備蓄」の4つを掲げてやってきた。

以来30年。4つの目標はどれだけ達成されたのか。
まず「脱中東」、政情不安定な中東石油への依存度は、一時70%程度まで下がったが、その後上昇し、現在では90%近い。これは失敗だった。次の「脱石油」、石油ショック当時の石油依存度は約7割だったが、原子力を主軸に天然ガスや海外からの石炭輸入により、今や52%に低下。成功といえるだろう。3つめの「日の丸原油確保」、これは失敗と言わざるを得ない。アラビア石油の採掘権延長交渉に失敗し、石油公団も廃止となる。危機後30年たった今も日本は自ら油田を持ち、精製・販売する一貫体制を確立できず、石油の外国への隷属が続いている。最後の「石油備蓄」は成功。実際に機能したのは湾岸戦争時くらいだが、備蓄はいわばタンス預金。いざという時にアテにできるのは、精神安定剤としての効果も大きい。

こうして見ると、この4試合、2勝2敗といったところだが、ともあれこれで石油危機後の15〜20年をやってきた。ところが10年ほど前から状況が変化し、新たに3つくらいの要素がエネルギー政策を大きく左右するようになった。

一つは「経済性・効率性・自由化」。その最大の象徴が電力自由化だろう。日本の電気は国際的に見て高いから安くしろ──今までの安定供給は少し脇に置いて、もっと効率的に、という話。第2は「環境」。ローマ会議に始まり京都議定書でCO2の6%削減を公約したように、近年、環境が前面に出るようになった。第3は「社会性」。例えば住民投票、環境や自由化への絶対視など、エネルギー問題に社会風潮が絡み、一種のポピュラリティが求められるようになっている。

個人的に私は、新たなこの3要素には大いに疑問を持っている。
まず「自由化」だが、それが本当に一般市民の益になるのかどうか。電力自由化は大量に電気を使う大企業には恩恵をもたらすかもしれないが、一般市民にはさほどメリットはない気がする。むしろカリフォルニア電力危機のようなことが起きると、デメリットの方が大きい。自由化して安くするというのは、理屈としては筋が通っている。だが机上の論理もあるのだ。実際に巧くいくとは限らない。その保証はない。言うまでもなく、電力業界の経営効率化は必要不可欠だが、特に日本のような資源小国は、エネルギー問題について多少保守的なくらい慎重に進めた方がいいと思っている。

第2の「環境」にしても、環境を守ることは確かに正しいが、かといって水戸黄門の印籠のように、反論を許さないほど絶対視するのはどうか。これは「社会性」への疑問とも関係する。例えば化石燃料はどれも、程度の差はあれ炭酸ガスを出す点では同じなのに、石炭=汚い、天然ガス=地球にやさしい、といった思い込みが浸透し、人気投票的にエネルギーの位置づけを決めてしまう。とりわけ新エネルギーの話は、必ず既存エネルギーの批判へと跳ね返る。地球温暖化防止の視点に立てば、原子力は間違いなく優等生なのになかなか評価されない。逆に回らない風力発電が多く、ランドマークになっているだけという事実には目をつむり、本当に電力を賄えるかという議論は置き放しにされてしまう。

なぜこうなったのだろうか。例えばアメリカ──米大統領は就任後数カ月で「国家エネルギー戦略」という160ページに及ぶ政策を発表した。あれだけ資源に恵まれた国でさえ、政権発足間もなく大々的に戦略を打ち出すほどエネルギー問題を重視している。翻って日本の首相は、所信表明演説で原子力について一言触れた程度だ。全エネルギーの8割を輸入に頼っている国である以上、もっと重視されていい。

思えば、安定供給を志向していた頃は、問答無用の感があり、社会風潮として賛否を議論するようなことはなかった。やはりエネルギーという国の根幹をなす問題は、ポピュラリティに左右されることなく、国として一貫した政策を採ることが是非とも必要だと考える。新しい要素に余り振り回されるのは望ましくない。

その際、忘れてならないのは、世界全体への目配りだ。現在世界で10億人の人がコマーシャルエナジー(商業エネルギー)を使えず、薪や藁を燃やして暮らしているとされている。だから彼らが、石炭など初期的商業エネルギーの段階に移行するため、我々先進国は最も高度な技術を要する原子力を率先して使いたい。それが義務とも思う。このためにも、日本の原子力事業者は、東電の原子力発電所点検記録の不正問題を改めて襟を正して受け止め、社会からの信頼を早急に回復させなければならない。

また、今後のエネルギー政策は、中国抜きに考えることはできない。あの巨大なエネルギー消費国が成長を続ければ、これまでのどんな見通しも計算が合わなくなる。しかも中国はすでに石油輸入国に転じ、インドネシアも近々輸入国になると言われている。そうなった将来、もし第三次石油ショックが起きれば、以前の比でない混乱が生じるのは必至だ。そうした万一の事態に備える意味でも、日本は「安定供給」という基本戦略を堅持すべきではないか。

ここ10年のエネルギー政策に見られる3要素は、いずれも重要ではあるが、あくまで付加的な意味の重要さであり、やはりエネルギー政策の基盤は「安定供給」だと私は思う。特に日本のような資源小国は、エネルギーや食糧問題に関する限り、無軌道に政策を揺るがすべきでない。改革好きの若い人には「守旧派」と言われるかもしれないが、守るべきものを守るのは大切なことだ。

今年の正月、自宅付近で門松の有無を調べると、門松のある家は半分程度だった。もちろんなくても支障はないが、それなりの装いで新年を迎えるという日本ならではの風習はもっと大切にしてもいい。一方でクリスマスのイルミネーションが年々増えている。最近のエネルギー政策の揺らぎがダブって見えた。守旧派と言われようと、私はやはり「門松派」でありたい。■


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