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2002.11.15
『集客都市』への視点──
  アジアと関西の都市文化から

橋爪 紳也

はしづめ しんや
大阪市立大学大学院文学研究科アジア都市文化学教室助教授
1960年大阪市生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院工学研究科修士課程修了、大阪大学大学院環境工学専攻博士課程修了。工学博士。京都精華大学助教授を経て現職。専門は都市計画史、建築史。著書「集客都市─文化の仕掛けが人を呼ぶ」「祝祭の<帝国>」「大阪モダン―通天閣と新世界」「KYOTO恋愛空間」「明治の迷宮都市―東京・大阪の遊楽空間」「倶楽部と日本人」など。

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アジアの都市文化の特徴は、「変化を受け入れる速度」のなかにこそ見出せる。アジアの都市は今、ダイナミックに変化している。

文化というのは、普遍的なものに対する地域固有の解釈の流儀である。またさまざまな関係性のつくり方に関わる作法であると考える。街づくりも都市計画も欧米流がグローバル・スタンダードになり、日本はそれを明治以降100年余りかけて受け入れてきたが、地域固有の価値観や生活のルールがあり、必ずしも西欧のままには受け入れられない。

例えば、鉄道ができたら都心で働いて郊外に住むというライフスタイルは、世界中、いたるところで見受けられる。英国の田園都市思想がひろまった結果である。でも住宅地のあり方や生活の内実は、地域ごとにさまざまだ。また携帯電話を持つのも普遍的になった。しかし意味や使い方は同じではない。地域固有の解釈がなされる。それが生活に関わる文化だろう。

今、アジアの諸都市は、かつての日本の3倍速くらいで外来文化を受け入れ、変化を遂げている。そこでは伝統文化の再生や新しい文化の生成が日々行われている。

翻って日本を見れば──戦後日本は、欧米文化をアジアの人たちに解りやすく解釈する役割を果たしてきた。ファーストフードもテーマパークも、百貨店もそうだろう。英国の百貨店はかなり高級な複合店舗で、アメリカのデパートメントストアは大衆向けであった。日本は、ヨーロッパ風の高級感は残しながら販売形態はアメリカ式という日本流百貨店をつくり、アジアに広めた。日本モデルが「アジアン・スタンダード」になったわけだが、近年その文化的優位性が衰えてきたのではないか。

人は異質なものに憧れる。19世紀末、日本の文化がヨーロッパに渡り、アールヌーボー、アールデコに影響を与えたのも、西欧人が「質の違い」に憧れたからだ。同様にアジアの人々は日本に強く憧れている。アジアの人は日本のアイドル歌手やアニメが好きであった。メイド・イン・ジャパン製品への憧れも強く、日本製のバイクやカセットプレイヤーは大人気である。いっぽうでベトナム辺りに行くと「錦林車庫行き」なんて書いた京都市バスの中古が走っていたり、遊園地では日本の中古のジェットコースターが「最先端」だと人気を集めていたりする。

ところが今、日本の製造業は生産拠点を次々に海外に移している。いわばメイド・イン・ジャパンの付加価値の高さを自ら放棄しつつあるわけだ。西洋に対して圧倒的な輸出をはじめている「manga」やジャパアニメーションも、韓国や中国に下請けで出しているから、向こうで人材が育てば、いずれ日本への憧れ、日本の文化的優位性は衰えてしまうのではないか。

すべての商品はそれ自体が「情報」である。すべての商品は「文化」を含んでいる。またその背後には、ある場所で展開している生活文化への憧れがある。だからこれからは、日本は、文化面にも憧れを持ってもらえる地域や都市を考えることが大事だ。地域の魅力をいかに巧く情報発信し、観光・集客につなげていくか──。同質のものをどれだけ見ても憧れは喚起されない。ひとつには常に新しい「異質なもの」を生み出している地域だということを、発信していくことだろう。併せて大事なのは、伝統的なものに違う角度から光を当て、こんな評価の仕方もあるのだと、新しい価値観を示すことだと考える。

例えばシンガポールは、日本や韓国に対しては「南の楽園」「買い物天国」とアピールし、ヨーロッパには「東の果ての多文化コロニアル都市」とエキゾティズムを訴える。同じものでも、相手が何に魅力を感じるか考えて、出す情報を変えている。それは地域の「ブランド戦略」だ。

実はこの辺に工夫が足りなかったのが、関西だと思う。関西らしさを言うときに、京阪神という多様な顔があり多様な文化が混在しているというだけでは充分ではない。既にあるもののなかで「何を」「誰に」主張するかという戦略性が大事。伝統を生かしつつ、新しいものも加えて「新しい物語」として常に刷新していかないといけない。

これは一見難しそうだけど、表層のイメージは案外簡単に短期間で切り替えられる。港湾と工業の町・神戸がレトロな異人館で売り出したのは1970年代だし、「京の町家」と聞くとすごく伝統がありそうだが、実は明治以降のものが大半。しかも京都は本来、日本有数の工業都市として発展を遂げた。古都というのは表層のイメージだ。伝統というのは曲者で、実は日々更新されている。だからたかだか10年くらいでも伝統を創ることができる。

しかし関西は、新しい伝統を創っているという意識が薄い。とりわけ大阪では希薄だ。戦後半世紀で新しい伝統、新しい顔を、どれほど創ってきたのだろうか。例えば東京には浅草、銀座、六本木、自由が丘と、地域ごとに違う顔がある。大阪はトータルでは「吉本、阪神、たこ焼き」としても、地域ごとの個性は乏しい。ディテールに拘れば「京橋と十三はちゃう」とも言えるけど、この違いが判るのは大阪人だけで、全国区じゃない。

なぜ全国区になれないかというと、ある種の人たちにとって、とても大事な憧れの場所──ミュージカルならニューヨークといった「メッカ」になっていないからだと考える。東京には演劇人は三軒茶屋、おしゃれ好きなら代官山、サラリーマンのメッカは新橋と、いろいろある。街の名前がある分野の代名詞になっていて、「永田町の論理」はみんな知ってるけど、「中之島の論理」とは誰も言わない。

要は関西で頑張れば、日本あるいは世界でも通用するという分野や場所がどれだけあるか。そういう場をたくさん持てれば、アジアの人にも魅力的な都市になる。バイオ、ナノテクといった研究分野もそう。世界中の研究者が「関西で研究すれば評価される」と憧れるメッカ、COE(センター・オブ・エクセレンス)ができればいい。

先ごろ、文部科学省が発表したCOEに、文系では大阪市立大学院大学の文学研究科が、公立大学から唯一選ばれた。これを機に、私自身まずは「都市研究のメッカ」をめざしたい。そして多様な分野で多くの関西人が新しい伝統づくりに参加することを期待したい。そこにあって、新たな異質性を生み出してゆく「速度」が大切であると強調したい。■


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