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2002.11.01
『外交』への視点──
  新しい兆しのなかで

中西 寛

なかにし ひろし
京都大学大学院法学研究科教授(国際政治学;日本外交史)
1962年大阪府生まれ。京都大学法学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、シカゴ大学大学院歴史学博士課程修了。京都大学助教授を経て、2002年より教授。故・高坂正堯氏に師事。21世紀日本の構想懇談会第1分科会「世界に生きる日本」メンバーなど歴任。共著「新しい安全保障論の視座―人間・環境・経済・情報」など。


少し前まで、日本は「経済一流、政治は三流」などと言われた。外交はさしずめ五流といったところだったが、今、大きな変革期を迎えている。

歴史的に見ると、戦後の日本外交は大きく3つの時期に分けられる。第1は占領期から1960年代末、沖縄返還を決めた佐藤・ニクソン会談頃までの「敗戦国外交」の時代。この時期の外交は、日本が一人前の国として発言権を獲得することが目標だった。60年代の高度経済成長も、軍事力に懲りた日本が国際的に認められるには経済しかない、という切実な思いからだった。

第2期は70年前後から90年頃までの「経済大国外交」時代。気がつけば西側第2位の経済大国に成長した日本が、経済力で国際協調体制の一画を占めるというやり方を採った時期だ。政治や安全保障はアメリカやヨーロッパに任せ、もっぱら経済に邁進。ODAにも気前よく金を出したが、冷戦構造の揺らぎとともに限界が来た。91年の湾岸戦争では130億ドルも税金を使ったのに全く評価されず、日本人は大ショックを受けた。

それ以降、今に至る第3期は「新しい外交方針・アイデンティティ模索」の時代。徐々にではあるが、これまでのような経済突出でなく、政治・経済・文化のバランスのとれた新しい日本外交の基本ができつつある。実際、9.11後の日本政府の対応は、湾岸戦争時よりはるかに素早かったし、またカンボジアや東ティモールのPKOに自衛隊を参加させるなど、国際常識に適う対応もできるようになり、国際秩序維持にも一役買い始めたのが、今の時代だ。

日本外交は従来、米国追随と言われがちで、確かに敗戦国外交の頃はアメリカの陰に隠れて引っ張ってもらうだけだったし、経済外交時代はアメリカが政治、日本が経済という役割分担で、政治的発言はしてこなかった。しかし90年代に入り、もう少し政治的パートナーにならなくてはという雰囲気が出始め、95年の自動車・部品交渉のように、以前よりはっきり物を言うようになってきた。

日本が変わり始めたことで、諸外国の日本を見る眼も少しずつ変わってきた。これまでは「経済しか価値のない国」だったが、政治面でも意見を聞いておいた方がいい、と思われるようになってきた。その変化は、日本人が思っている以上に大きい。日本人がノーベル賞を3年連続、しかも今年は2人も受賞したのも、突然天才が増えたわけじゃない。文化学術面の発言力・発信力と、政治面での言動が双方向でプラスに作用し、日本に一目置かせるようになったからだ。

つまり今の日本は、政治的発言でもポテンシャルを示し始めた段階。欧米と非欧米の協調が大きな課題になるなかで、日本の態度が注目されている。なぜなら、非西欧国家で完全に近代化した国は日本だけ。他の国が言えないことも言える立場にあるわけだ。例えば日本はイスラム世界に対し、植民地政策などを採ってきた欧米とは違う関係を持ち得る。現に日本のイスラム研究は、欧米とは違った観点に立つものも多く、これを外交政策に繋ぐことができれば、欧米にとってもイスラムにとっても、日本外交が1つのモデルになる。ポジティブな循環を生み出すのは簡単ではないが、可能性の芽はあるということだ。

外交も人と人のつきあいと一緒。今後日本が国際社会でポジションを占めるにあたっては、どれだけ信頼できる友を持てるか、が鍵になる。日本は今のところ、本気で頼りにできるパートナーはアメリカしかいない。アメリカをパートナーにしておけば他と関係を結ぶにも都合がいいという状況は基本的に変わっていない。だから日米関係を基軸とする外交方針は堅持しつつ、できれば、今後数十年のうちに、あと2つか3つ、頼れるパートナーをつくりたい。韓国、中国、ロシア、あるいはヨーロッパの国でもいい。苦しい時に助けてくれる「真の友」が欲しい。

それには政治や安全保障の面で、日本が一定の責任を果たすことが基本になる。もちろん経済もボロボロではダメだから、もう少し立て直さないといけない。だけど、もっと大事なのは、誰かにべったりでなく、グローバルな視点で、世界にとって何がいいかを本気で考える。戦後日本はそうした発想を持つ機会も意欲もなかったが、真の友を得ようと思うなら、国際社会全体の利益を考え、「筋を通す」ことが必要になる。

その際、問題は国内体制。大きな視野を持ちつつ、それを実際の外交にタイミングよく生かせる体制を築けるかどうか。これもまだ模索の段階にあり、成功するか否かは、最終的には国民の「器量」にかかっている。進行中の外務省改革も、表面に出てくるのは痴話喧嘩のような話ばかりだが、根底では日本外交が大きく変わろうとしていることも確か。それが判らないような器量の国民なら、日本外交に未来はない。

しかし幸い国民の意識は随分変化している。小泉訪朝の支持率があれほど高かったのもその現れだし、最近は憲法改正の議論をタブー視する人もほとんどいなくなった。今の日本はマスコミ、官僚、政治家の順で頭が古い。むしろ一般の人の方がずっと柔軟で、安全保障など外交の重要問題への理解も進んでいる。

歴史というのは不思議なもので、明治維新にしても意図してできたわけではなく、結果としてああなった。カントやヘーゲルの言う「理性の巧緻」。それぞれの個人が自分の分かる範囲で合理的に行動している内に、意図せず全体として良い結果を生み出すことが歴史にはある。日本外交が模索の時代を抜けて確固たる変革を遂げられるかどうか──私は日本人の器量を信じたい。■


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