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2002.09.15
『生命の世紀』への視点──
  テクノロジーとカルチャーの融合をめざして

四方哲也

よも てつや
大阪大学大学院工学研究科応用生物工学専攻助教授(生物物理・進化論)
1963年京都府生まれ。大阪大学工学部発酵工学科卒、同大学院博士課程修了。米国シティ・オブ・ホープ・ベックマン研究所研究員、大阪大学助手を経て現職。東京大学助教授併任。大腸菌実験進化、試験管内自己複製系、人工タンパク質の進化的創成など研究。著書「眠れる遺伝子進化論」など。2002年戦略的創造研究推進事業(さきがけ研究21)「協調と制御」研究領域研究者として、米専門誌「分子進化ジャーナル」のズッカーカンドル賞を受賞。

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「テクノロジー」の進展──ちょっと前にはIT革命が起きて、インターネットだ、モバイルだと一気にコンピュータ化が進み、今度21世紀は「生命の世紀」ということで、バイオテクノロジーへの期待が急速に高まっている。そんなふうに、技術発展が経済発展につながることを、僕は否定しない。

だけど、それとは全く質を異にして、「生命の世紀」という限りは、利便性とか役に立つという「テクノロジー」の側面だけでなく、生命をどう捉えるかとか、バイオ技術をどう見るか、という物事の見方や考え方を提示するような「カルチャー」の側面が別にあった方がいい。

僕のやってることも半分はテクノロジーで具体的成果につながる面もあるが、半分はカルチャー、生き物をどう捉えるかという見方の提示でもある。

生き物の捉え方について、西欧では能力が一定方向に真っ直ぐ進化していくイメージが強いけど、日本はいろんなものが有機的に結合していて、どこへ行くというんじゃなく、くるくる回っている感じ。ちょうど曼陀羅みたいにね。そういう見方の違いが、日本オリジナルとか関西オリジナルとして出てきてもいい。

そんなことを思って僕は「進化」を「実験」によって研究している。進化というのは自然界では何億年もかかるから、立派なものと思われがちだけど、目の前で進化を再現してみると意外と簡単。しかもそれは従来唱えられてきた西欧発の進化論とはちょっと違ったりする。

例えば大腸菌の遺伝子に突然変異をかけながら長期間培養すると、最適化していくはずなのに、全くそうならない。実際は、多様な大腸菌が集団としてある。ものすごく競争しているけど、一番強いものが勝ち残るわけではない。元気な大腸菌が自分のために栄養を作っているのについつい周りに漏らしたりして、完璧には利己的になれない。となると漏れた栄養を使って弱いものも生き残る。しかも途中で滅んだ奴を、より進化した奴と一緒にしてみると今度は共存したりする。劣っていたから滅んだのではなく、たまたまそのときの相手が悪かっただけじゃないか。

能力は周りとの相対的な関係で決まる。相互作用を切ってしまえば、純粋な能力競争になるが、なかなかそうはいかない。学校で個人の能力を測ろうとテストをすると、目がいい奴とか友達が多い奴の点が良かったり、会社でも「なぜあの人が」と思う人が出世したりする。それがまた、あの人でも出世したんだからと周りに相互作用を生んでいく。

要するに、一番優れたものだけが必ずしも生き残るとは限らない。競争しながらごちゃごちゃいるというのが、僕の研究結果。つまり「競争的共存」。みんな自分だけ生き残ろうとしてるんだけど、そうはならない。「淘汰排除」「優勝劣敗」というダーウィン進化論は、集団の密度が低く相互作用が弱い環境では確かにそうなるけど、集団が混んでる環境では、そう簡単にいきますかいな。

それを日本人は何となく解ってる。日本社会は人と人の関係性を大事にしていて、錯綜した関係がいっぱいある。むしろそういう多様性が大事。もちろん西欧的な一方向・一直線のやり方もあっていいけど、日本が研究にしろ何にしろ、オリジナリティを出そうとすると、相互作用や横の関係性を大事にして多様性を保つことをしないと、息苦しいし、楽しくはない。競争原理はいいけど、評価軸がみんな同じでは退屈だ。多様性でもって勢いを保持していく方がいい。

バイオについても、テクノロジーをワーッとやるのもいいけど、世界中で役に立つと思ってるから、テクノロジーは放っておいても進んでいく。日本の中でも関西に特徴があるとすれば、「面白さ」とか「人と人との関係性の深さ」。関西は、面白ければええやんと、多様な研究を許してくれる。最近、僕は繊毛虫に光合成細菌を埋めて「動く植物」を創ろうとしている。植物は自分でエネルギーを創れるが動けない。動く植物ができたら、何の役に立つかはともかく、楽しい。そういう研究は関西が向いている。

役に立つことばかりでは、どんどん普通の人の感覚と離れていく。技術はカルチャーとともに進まないと危険な方向に行くことは、歴史が証明している。技術の暴走に歯止めをかけるには、まず普通の人が研究に関心を持てることが大事。面白い研究なら普通の人も興味を示し、社会で話題になるなかで、倫理も育っていく。急速に進む生命科学の「技術」の効用と危険を見極めるためにも、社会全体に科学を「文化」として楽しむ懐の深さが不可欠だと思う。

大事なことは市民の視点。市民が面白いと思って、多様な研究を評価するようになればいい。関西はバイオが凄いと、みんなが思い、人が集まってワイワイやることが経済効果としても大きい。面白い研究を企業が育てたり、市民一人ひとりが金を出すようになれば、カルチャーとして育っていく。

テクノロジーばかりの関西ではいけないし、カルチャーばかり、抽象論ばかりでもダメ。カルチャーもテクノロジーの効用も含め多様であることがいい。世界、そして日本の他地域との競争の中で、一方向にならないよう、多様性を包含したい。僕のやってる大腸菌の実験が正しければ、それは直ぐに人間社会にあてはまるわけで、関係性や相互作用だけ強くしておけば、多様性は保持できる。関西はそのポテンシャルをどこよりも持っていると、僕は思う。■


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