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2002.09.01
『少産・長寿社会』への視点──
  人口論から考える

古田隆彦

ふるた たかひこ
現代社会研究所所長;青森大学社会学部教授(応用社会学・人口生態学)
1939年岐阜県生まれ。名古屋大学法学部卒。八幡製鉄、社会工学研究所取締役研究部長を経て、84年より現職。人口動態をマクロな視点で捉え、社会・経済・文明・環境との相関関係を分析。人口波動に基づく未来予測をベースに、21世紀社会のグランドデザインを提言している。主な著書「人口波動で未来を読む」「凝縮社会をどう生きるか」「日本はなぜ縮んでゆくのか」など。

現代社会研究所


子供は減り、老人ばかりが増えていく──と聴くと、どうしても暗い社会をイメージしがちだ。現に日本の人口は、現在の1億2700万程度をピークに2005年頃から減少。2050年には1億を切ると予測されており、政府もマスコミもオピニオンリーダーも、そして一般の人々も「大変な停滞社会になる」と悲観的な見方が大半を占めている。

しかしそれは「人口は増えるのが当たり前」だった自分の経験でしか見ていないから。そもそも人口は波を打つ──増えたり減ったりという「人口波動」は、人口学の開祖マルサスが指摘した人口法則の基本だ。人間は、食糧や資源が十分にある環境下では増えていくが、「キャリング・キャパシティ(人口容量)」が限界に来れば減っていく。生態学では当然の現象だが、人間が他の生物と違う点は、たとえ容量が飽和しても新たな文明を創り出すことで次の拡大期に向かうこと。日本でも過去4回、人口波動が起きており、今が5回目。そう考えると今の人口減少は、少子・高齢化という単純な理解を超え、環境問題や技術停滞も含めて、近代工業文明が壁に当たったためだ。ここで一旦縮んだ後、また次の成長をするための「踊り場」にいる、というのが正しい現状認識だ。

だから人口減少は日本だけの現象ではない。ヨーロッパでは既に1970年代から、まずは北欧、次に中欧や東欧、そして今は南欧と、国土が狭く資源の少ない国から減少している。一方、アメリカや中国、インドのように、国土も広く資源の豊富な国はまだ伸びていて、20世紀的な成長を続けている。ただ、「21世紀の先進国」の姿は、たぶんこれとは違う。むしろ今、縮んでいる国こそが21世紀の先取りモデル。20世紀的な成長・拡大の先進国概念を変え、上手に縮む国が「21世紀の先進国」という発想に、日本も早く切り替えた方がいい。

それは決して暗い社会ではない。人口が減れば、GDPがゼロ成長でも1人あたりの所得は増える。もっとも労働力自体が減ってしまうので、肉体労働はロボットを、頭脳労働はコンピュータを使うことで1人あたりの労働生産性を上げることは必要だ。加えて、従来の大量販売を狙った物質的拡大路線から少量でも高付加価値の商品へ、付加価値生産性を高めれば十分市場は維持できる。実際、ベビーの数は減っているにもかかわらず、離乳食やおむつメーカーは逆に売上を伸ばしている。少ない子供に手をかける親心を酌んで付加価値をつけたことはもちろん、高齢者を顧客にしていくという発想転換を行ったからだ。

成長・拡大でなく凝縮型の社会というものを、かつて日本も経験している。18世紀の江戸中期、日本は農業文明が行き詰まり、人口は1割減となったが、実はこの時代、地域のゴミは地域で処理する循環型社会が形成されたし、歌舞伎、浮世絵、戯作といった文化も一斉に開花した。人口が停滞する中でゆとりが生まれ、社会は安定してルールができ、美意識や精神性など非物質的なものの価値が高まり、文化や芸術が花開いたわけだ。当時の江戸の識字率は約70%。同時期ロンドンの新聞購読率が4割程度というから、いかに江戸の文化水準が高かったか。ここで活躍したのが蔦屋十三郎という、ビル・ゲイツにも匹敵する出版商人。木版技術を使って全国に貸本屋ネットワークを創り、江戸型情報社会を築きあげた。

つまり江戸の人口停滞期は、農業文明の中で情報社会を創り、農業文明を完成・成熟させる役割を担っていた。同様に21世紀前半の50年は、19〜20世紀の工業文明を、さらに成熟した工業文明に置き換える役割を担っている。

既に変化は始まっている。例えば最近注目の「スローフード」。その対極にある「ファーストフード」への反省から、地場の安全な食品を見直す動きがイタリアで起き、日本でも共感する人が増えている。家電も、シンプルで耐久性の高いスウェーデン製が支持され始め、「母から娘まで」メンテナンスしながら長く使える手作りバッグが売れている。気忙しい大量消費型のアメリカンライフから、落ち着いたヨーロッパ型「スローライフ」へ、ライフスタイルが変化し始めたと言えよう。

日本がもともと持っている江戸時代の経験に加え、現代ヨーロッパの多様なモデル──例えば、週末は田舎のセカンドハウスで過ごすスウェーデンのフォレストライフ。だけどスウェーデンのように早々とリタイアを決めると福祉負担が大変だから、働き方はオランダのジョブ・シェアリング。イギリスのアフタヌーンティもいいし、イタリアのスローフードも魅力。古今東西のモデルの中からいいものを採り入れながら、日本ならではの新しい社会を創ればいい。

こうして、この50年は発想を変え、上手く縮んでいくとして、次の時代の成長はエネルギー革命にかかっている。蒸気機関と電気エネルギーによって工業文明が築かれたように、文明はエネルギーの裏付けがあって生まれる。現在の停滞も、突き詰めれば化石エネルギーの限界であり、これをブレークスルーする必要がある。だからこれから先進国は、新しいエネルギーを見つける競争を始めることになる。踊り場にいる間に、次の時代を担う新しいエネルギー技術を確立する。それが21世紀の先進国の役割。日本にはぜひその先進モデルになってほしい。■


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