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一條和生

2002.06.15
『競争力』への視点──
  グローバリゼーションのなかで

一條和生

いちじょう かずお
一橋大学大学院社会学研究科、同国際企業戦略研究科教授(知識創造論;企業変革論)
1958年東京都生まれ。一橋大学大学院社会学研究科、ミシガン大学経営大学院卒。組織論を専門とし、日本・海外の一流企業のリーダーシップ育成プロジェクト、コンサルティングにも深く関わる。著書「バリュー経営─知のマネジメント」「ITとリーダー革命」、共著「ナレッジ・イネーブリング」「ジャック・ウェルチのGE革命」、訳書「コア・コンピタンス経営」「リーダーシップ・エンジン」など。

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●「失われた10年」に、 日本が本当に失ったもの

IMDの世界競争力報告では、日本は2002年総合ランキング30位と、低迷が続いている。もちろん個別企業では強い競争力を持つ企業もあるが、政府の効率性やインフラなど多面的に見たとき、国全体の力はずいぶん落ちている。

しかし強みが全くなくなった訳ではない。IMDの評価でも、労働力のスキルは高いし、R&Dも強いし、教育レベルは高く、やる気もある、労使関係も良好で生産的。これらは欧米とは全然違う。アメリカでは考える人・手を動かす人と分けているが、日本では「考える社員」づくりができている。

例えばトヨタのものづくりの強みの一つに「あんどん」がある。これはトラブル発生ランプで、赤ランプはラインを止めるという合図。その最終決定は現場が行う。これはアメリカではまずあり得ない。生産ラインの停止は効率を著しく阻害するので、最大の意思決定。現場労働者にその権限は与えられない。しかしトヨタでは、社員がおかしいと思えば、徹底的に「なぜ」を5回繰り返し、本当におかしいと判断すれば、止めていい。トヨタの社員は命令されて働くのでなく、「自ら働く」。欧米の自動化は「自動」、オートメーションだが、トヨタは「自働」。そこからトヨタの世界最高の品質ができている。

つまり日本的経営の本質は、「考える社員づくり」+「組織メンバー間のいい関係性」。馴れ合いでなく、切磋琢磨し合う創造的なチームワーク。製品開発にしても、単に担当部門がやるだけでなく、多様な職能が参加して、クロスファンクションにチームを組み、高いレベルの製品を生んできた。考える社員間のチームワークは、日本の強みであり、今も世界に通用する。

ところがここ10年日本は失敗した。グローバリゼーションで競争が厳しいということで能力給にシフトした。能力を発揮した人を認めることは大事だが、一人で天狗になって良い業績を上げても仕方がない。能力給導入にあたっては、どれだけ他者といいチームワークを発揮しながら業績を上げたか、どれだけ部下を育てながら業績を上げたか、が大事。なのに日本はここ数年、外部競争をそのまま内部に持ち込み、内部にも殺伐とした人間関係をつくってしまった。

日本企業が忘れているのは、企業は「企業組織」だということ。利益を上げるのが企業の使命だが、組織ということを否定してはあり得ない。組織とは、一人でできないことを他のメンバーといい関係性を築きながら達成する。グローバリゼーションのなかで、企業性の側面ではグローバルな普遍性を取り入れてきたが、一方の組織力、切磋琢磨するチームワークで強みを発揮するという組織の原点を疎かにし、日本の良さを壊そうとしているのは、非常に残念だ。

我々は何を壊し、何を守るのか──。グローバリゼーションよりも「グローカリゼーション」。世界の普遍性は取り入れつつ自らの固有性を生かす。日本企業の中でも、新しい環境下で自分たちの従来の「勝利の方程式」を建設的に批判し、アップデイトできている会社は、強い。トヨタもソニーもホンダもそれをやった。自分たちのやり方を原点に帰って検証し、新たに蘇らせた。ガラガラと全部壊すのでなく、「強み」を進化させることが大事だ。

●ビジョンとは、予測でも展望でもなく誰にでも創れるものではない

強みは守る。しかし一方で、変えないといけないことがある。

企業活動に大事なことは、whatとwhyとhow──何をするのか、なぜするのか、どうやるか──を徹底的に突き詰めることだ。明治維新以降、日本は基本的にキャッチアップ戦略。whatは欧米が定め、howの部分で強みを発揮してきた。そして90年代初頭、世界の先頭に立った日本は、自らwhatを考えざるを得なくなった。しかしhowの最適システムを創りあげた日本の優良企業にとって、それが完璧であるほど壊すのは難しい。だから優良企業は衰退する。

whatを欧米に任せてきた日本は、とりわけビジョン構築力が弱い。ビジョンとは予測でも展望でもなく、また誰にでも創れるわけではない。例えば、「我々はインターネットを使ってグローバルに事業展開します」なんていうのは、小学校3年生でも判る予測・展望であって、ビジョンじゃない。しかしそれをビジョンと称している企業がどれだけ多いか。

ビジョンとは「水平線の向こうの新大陸」を示すもの。多くの人には水平線しか見えていない。だけどその向こうに、こんな新大陸がある、と示すのがビジョンだ。必要なのはクリエイティビティ、創造的に未来を創りあげる力。ビジョンとは、多くの人が、えーっと驚く独創性に富んだものでなくちゃいけない。加えてビジョンは、その会社固有の強みを駆使したものでないといけないし、ビジョンはその会社で実行できるものでないといけない。

残念ながら、そういうビジョンを持つ日本企業は極めて少ない。そもそもビジョンを創れない人に創らせてることが問題だ。例えばコロンブスは頭がおかしいと言われたかもしれないが、彼には新世界が見えていた。現在を超えたものの見方ができる人は、多くはないが必ず居る。多様な情報ソースを持っていると、次第に「点」の情報が「線」になり、「こんな世界がある」と見えてくる。そういう見方ができる人を探し出し、ビジョン構築をしてもらう。日本人のDNAに未来を創造する力が欠けてるなんてことはない。要はそういう人にやらせるかどうかだ。

シャープの町田さんは98年社長になったとき、「2005年までに全てのTVを液晶にする」と言った。2002年の今なら「そうか」と思う程度だが、当時は技術的にもコスト的にも課題が山積み。このビジョンに驚いた人も多いだろう。しかし今シャープは液晶を牽引力に大きく成長している。大胆なビジョンが会社を引っ張る好例だ。

但しトップが大胆なビジョンを表明しても、組織の人が共鳴しないと意味はない。「そうだ、これがやりたかったんだ」とみんなが頷くものでなきゃいけない。そのためにトップは徹底して社員とのコミュニケーションを図る。みんなこの会社に何を求めて入社したかを探り、期待に応えるビジョンを示す。強い会社はそれをやっている。日産のゴーン氏も徹底的に社員と話し、99年アクションプラン発表の席で、「今日この日を我々が日産というブランドに再び誇りを取り戻した日としよう」と。これを聴いて社員は「そうだこのために会社に残ったんだ」と力が湧いてくる。だからビジョンに必要なのは、どれだけ組織メンバーの共感を得るか、心を動かせるか──。いいビジョンを創れば会社は動く。

もう一つ大事なことは、社員が「そうだこれだ」と頷いたあと、各自が自分自身のリーダーシップを自覚すること。日本で問題なのは、これだけ構造改革、企業変革が叫ばれるなかで、依然、リーダーシップは他人事という感があることだ。「構造改革は小泉さんのリーダーシップ次第」とか「社長が何も決めてくれないから」とか、「他人事マインドセット」が日本の国にも企業にも蔓延している。しかしリーダーシップは特定の階層に結びついてるものではなく、あらゆる階層に関係がある。自分は何に対してリーダーシップをとるのか──。上が動かないと批判するのでなく、俺たちが変えるという気概を持つ。そうやって組織のいろんなメンバーがビジョン達成に向けて動くことが大事だ。

自らの強みの先にある、まだ見ぬ新大陸へ、トップはもちろん組織メンバー一人ひとりの英知とリーダーシップを、今こそ求めたい。■


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