 |
関西電力研究開発室電力技術研究所環境技術研究センター
チーフリサーチャー 宮坂 均 |
老化や生活習慣病の引き金と言われる活性酸素。関西電力は、活性酸素を極めて高い抗酸化力で除去する藻類エキスの抽出に成功、水産餌料や化粧品として実用化を検討している。エキスの効果や特徴は? 研究の経緯と実用化の見通しは?──関西電力研究開発室 電力技術研究所環境技術研究センターの宮坂均チーフリサーチャーに訊いた。
 |
| クラミドモナスW80 |
――関西電力が発見した「抗酸化力の高い藻類エキス」とは? //////////
抗酸化物質は体内の活性酸素を消し、老化や病気を防ぐ働きがある。ビタミンC・Eやβカロチン、ポリフェノール、コエンザイムQ10などがよく知られている抗酸化物質だが、今回発見したのは、関西電力が保有している緑藻「クラミドモナスW80」という植物プランクトンから抽出したエキス。これが、従来特許申請されている藻類エキスの10倍近く高い抗酸化活性を持つことが判明。加えて、抗酸化物質には、ビタミンCのように水に溶けやすいタイプと、ビタミンEのように水に溶けにくく脂に溶けやすいタイプ──つまり水溶性と脂溶性、二つのタイプがあり、どちらも細胞を酸化的ストレスから保護するのに重要だが、W80はこの両タイプの抗酸化活性を持っており、生体全体に効く。そこで、従来より遙かに優れた抗酸化力を持つ藻類エキスとして特許申請したというわけだ。
――研究の経緯は? //////////
微細藻類(植物プランクトン)は、ある条件下におくと水素を発生する。関西電力は、1990年以降、藻類から未来エネルギーとして水素を生産する研究を大阪大学薬学部と共同で行っていた。その際、海水から採取された多くの緑藻株のなかから、水素生産能力の高い有望な株として選んだのが「クラミドモナスW80」だった。その後、研究開始から数年経った1996年頃、その「クラミドモナスW80」が酸化的ストレスにきわめて強いことを偶然発見した。除草剤の一種で、活性酸素によって植物を枯らすパラコートをこの藻類に与えてみたところ、非常に高い耐性があったからだ。さらにW80は重金属にも非常に強いことがわかり、ストレス耐性に関わるさまざまな有用遺伝子の分離も行った。その後、「酸化的ストレスに強い『クラミドモナスW80』は、なんらかの抗酸化物質を持っているのではないか。それをエキスとして抽出すれば化粧品などに使えるのではないか」と考え、エキスを抽出して実験を繰り返し、今回の成果を得た。化粧品にという点では、多少の「遊び心」もあったように思うが、それが成果に結びついた。
――電力会社と藻類研究というのは結びつきにくいが、水素研究の副産物だった? //////////
もともと藻類は、陸上植物に比べCO2吸収能力が高い。そのため各電力会社では、火力発電所から排出されるCO2を削減するため藻類によるCO2吸収固定の研究を行っていた。そのような背景があり、電力会社は実は藻類にはなじみが深い。ただやはり藻類で削減できるCO2の量は限られることから、1998年頃には全体として研究は下火になった。しかし我々の場合は「クラミドモナスW80」というユニークな性質の藻類を所有していたので、CO2の固定はひとまず置き、有用遺伝子の分離や抗酸化力という別の切り口で研究を続けてきた。
――藻類エキスはどのような分野で活用される? //////////
まずは「魚の餌」、養殖魚などの耐病性を高める餌としての実用化をめざしている。クロマグロの完全養殖で有名な近畿大学水産研究所と共同で海産魚の餌として、また静岡大学理学部と共同で淡水魚の餌としての利用を研究している。もともとこの藻類は、海のプランクトンなので、魚の餌というのは自然な話。この餌で、魚が元気になったり、病気になるのを防ぐ効果について実験しており、餌を与えた魚の方が、ある種の病原菌に感染した時、生き残る数が多いという結果も出ている。こうした大学との共同研究で良い結果が得られれば、将来的には水産資材としての開発・販売を、グループ企業の環境総合テクノス(KANSO)を通じて行うことも考えている。
――魚の餌以外での活用は? //////////
魚の餌同様、商品化を検討しているのが「化粧品」だ。化粧水などで効果があるのではないかと、現在、素材メーカーと共同で研究開発を進めている。藻類エキスは自然由来のエキスなので、商品化に際して大変イメージが良いという声もある。
 |
| クラミドモナスW80株の大量培養プール |
――研究や実用化に際しての苦労は? //////////
研究当初は、抗酸化成分を効率よく抽出する最適な方法が見つからず、かなり試行錯誤を行った。今、苦労しているのは「色」。葉緑素(クロロフィル)が入っていると色が安定せず、時間とともに緑色が褪色し、茶色く変化してしまう。特に化粧品については、成分的に問題がなくても、次第に変色するようでは商品化は難しい。葉緑素をエキスからいかに除去するか。例えば、暗いところで育てて白い藻体ができないか等の実験をしているが、なかなか光がないところでは育たない。脱色する方法も含め検討しているところだ。
――実用化の時期は? //////////
2008年頃まで試験を続け、その結果を分析し、それ以降になると思う。なんとか製品として世に出したいと思っており、化粧品の商品化では変色の問題で壁にぶつかっているが、それが解決すれば、次の段階に進めるだろう。
――今後の課題・抱負は? //////////
水産餌料、化粧品などで、まず実用化できるものを実用化させていきたい。科学的関心としては、「クラミドモナスW80」に含まれる有効成分は何なのかを明らかにしていきたい。また、自然界にはほかにも面白い藻類がたくさんいて、非常に有用な生物資源といえる。先日も海辺の温泉を中心に採集を行い、酸化的ストレス耐性の強い新種の藻類をいくつか採取できた。今後は、これらの藻類についても研究を重ね、「クラミドモナスW80」のようなユニークで有用な藻類を多く見つけていきたい。
■
R&D News Kansai>> http://www.kepco.co.jp/rd/news/pdf/rd436.pdf#page=1 |