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内田 樹
内田 樹

うちだ たつる 神戸女学院大学文学部総合文化学科教授(フランス現代思想、映画論、武道論)
1950年東京都生まれ。東京大学文学部卒、東京都立大学大学院人文科学研究科仏文学専攻博士課程中退。東京都立大学助手、神戸女学院大学助教授を経て、教授。著書「ためらいの倫理学」「『おじさん』的思考」「寝ながら学べる構造主義」「大人は愉しい─メル友おじさん交換日記」「レヴィナスと愛の現象学」など。合気道6段。

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■おじさん的常識(5)
「正論について」

2003.03.15

慨世のご高説をたれる人間をどうも信用することができない。

子どものころは教師が信用できなかった。長じてマルクス主義者が信じられず、続いてフェミニストに猜疑のまなざしを向け、その後ももポストコロニアリストやジェンダー論者やカルチュラル・スタディーズ関係者など、「正しい理説」を語る人間に、どうしても心を許すことができない。なぜ「正しい人」が信じられないのであろうか。ときどきわが狭量にうんざりする。

ところが先日、TVの討論番組で北朝鮮問題をめぐって左右の論客が熱弁をふるっているのを見ているうちに、不意にその理由に思い当たった。
「そんな悠長なことを言っていて、北朝鮮が攻めてきたらどうするんだ」と保守派の論客がまくし立てていた。その通り、と私は思った。北朝鮮がほんとに攻めてきたら、そのときこそ、あんたが正しかったということになる。そこで「あら」と私は膝を打った。この人、「北朝鮮が攻めてくる」ことをほんとうは願っているんじゃないのか。

「北朝鮮による領土侵犯の危険性と備えの急であること」を訴える彼の理説が「正しい」ということを証明するのに、北朝鮮による領土侵犯の「事実」以上に確実なものはないからである。工作船が日本海沿岸に上陸し、「有事法制」不備のためにもたもたとしている自衛隊を軽々と撃破し、数万の住民を虐殺...というシナリオこそ、彼の「北朝鮮脅威論+有事立法緊急論」が「正しかったこと」をいかなるデータよりも雄弁に証明するであろう。

口角泡を飛ばしているこの論客にとって「至福の状況」とは、いまこのスタジオに、「北朝鮮工作船が上陸して、陸自と交戦中」という臨時ニュースが飛び込んできて、対北朝鮮宥和論者が顔面蒼白となって絶句する、という場面に違いない。「ほらみたことか!」と彼は勝利の喜びに打ち震えるであろう。

まことに不思議なことである。
国防の喫緊なることを説く人間がもっとも望んでいるのは、「国防の破綻」という事実である。同じように、経済政策転換の緊急であることを説く人間がもっとも望んでいるのは、現在の経済政策がはなばなしく失敗することである。性差別・人種差別解消の必須であることを説く人間が求めて止まないのは、差別の事実が「あそこにも、ここにも遍在する」という証拠である。

正論家の正しさは「世の中がより悪くなる」ことによってしか証明できない。したがって、正論家は必ずや「世の中がより悪くなる」ことを無意識に望むようになる。

「世の中をより住みやすくすること」よりも「自説の正しさを証明すること」を優先的に配慮するような人間を私は信用しない。
私が正論を嫌うのはたぶんそのせいである。■



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