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森岡 正博
森岡 正博

もりおか まさひろ  大阪府立大学総合科学部教授(生命論・哲学・現代思想)
1958年高知県生まれ。東京大学文学部倫理学科卒、同大学院人文科学研究科倫理学専攻博士課程単位取得退学。東京大学助手、国際日本文化センター助手、ウェスリアン大学客員研究員、大阪府立大学助教授を経て、98年より現職。学際的視点から社会と人間の問題を扱う。著書「生命観を問いなおす」「生命学に何ができるか」「意識通信」「自分と向き合う知の方法」「宗教なき時代を生きるために」「生命学への招待」「脳死の人」、共著「ささえあいの人間学」「電脳福祉論」「対論 脳と生命」など。

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■日常の哲学的考察から見えるもの(4)
「一度も体験したことのない過去に入り浸る若者たちはいったい何を求めているのか」

2003.08.01

昭和歌謡が、若い人たちのあいだで人気だという。60年代の歌謡曲、グループサウンズ、 70年代のフォークソングなどのCDが売れている。身近にいる若者に聞いてみたら、やはりそうだと言う。彼らは、親たちが若いときに夢中になった音楽を、とても新鮮な音源として受容しているのだ。

それだけではない。最近のバンドは、昭和歌謡をリメイクして歌ったり、それらしき旋律や雰囲気を上手にまねて演奏しているのだ。実際に、2〜3曲聴いてみた。なるほど、60年代にテレビやラジオから流れていた、あの独特の雰囲気が再現されている。

なかでも、昨年の紅白歌合戦にも出場したことのあるバンドのCDは、とても面白いものだった。というのも、私たちの世代が聴くと、「あー、このエンディングは、あれやん」「このメロディ進行は、あの懐メロ」というふうに、いちいち懐かしい記憶を直接にくすぐるからである。そのようなオールドファンを刺激する仕掛けがふんだんに盛り込まれたCDを、いまの若者たちはどういうふうに聴いているのだろうか。このCDを教えてくれた若者に、曲の元ネタが分かるかどうか尋ねてみた。しかし、尋ねるだけ無駄であった。まったく、知らないのだ。若者たちは、バンドの作り出す「昔の雰囲気」だけに、酔っているのである。

これは、なんとも言えない光景である。若者たちは、自分が一度も体験したことのないはずの過去を、あたかもそれが自分たちの記憶であるかのように懐かしがる。そこに充満しているのはたしかに「ノスタルジー」の視線なのだが、それは、自分が一度も体験したことのない過去に対する「ノスタルジー」なのだ。親の世代の甘酸っぱい記憶を、いまここで生きようとする若者たち。

『クレヨンしんちゃん・大人帝国の逆襲』というアニメ映画が、公開以来、大きな話題を呼んでいる。この映画には、「20世紀博」という巨大テーマパークが登場する。大人たちは、「20世紀博」が提供する懐かしい昭和の時代にノスタルジックに溺れ、わが子を捨て、家庭を崩壊させていく。このテーマパークを作り出したのは、ケンという40代の男と、チャコという20代の女だ。ケンは、自分が若かった70年前後の日本の風景を「20世紀博」の内部に閉じ込めようとする。しかし、この「20世紀博」のプランを先導しているのは、実は、若きチャコなのである。チャコは、20代だから、70年前後を実際には知らない。彼女は、自分が一度も体験したことのない過去を、テーマパークの内部に封じ込めようとする。創作された過去の世界へと、愛するケンの蹉跌の記憶とともに閉じこもるためである。

このチャコという若い女性はまた、昭和歌謡にひたる現代の若者たちの象徴でもあるのだろう。彼らの親の世代となりつつある私は、いったい、彼らにどういう言葉を投げかければよいのであろうか。■



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