第四日 早く電気を!の声に応えて

  • 1.ガレージの中で
  • 2.最前線基地の苦悩
  • 3.不眠不休の電話対応
  • 4.いち早く「特別措置」を
  • 5.温かさが通い合う

1月20日 停電軒数/約11万軒

1.ガレージの中で

関西電力三宮営業所。神戸支店の1~2階を占めていたこの事業所も、地震によって大きな被害を受けた。キャビネットが倒れ、書類は四方八方に散乱。余震のたび、壁や柱からコンクリートの破片が音をたてて落下する。心なしか西側に向かって、少しずつ傾いているような感じもした。

丸野三明所長は、そんな危険な状況下、所員に業務を続けさせることが不安だった。1階のお客さまセンターは、ガラスの割れた窓を開け、万一の際には即座に逃げ出せるようにしていたが、とても落ち着いて仕事ができる環境ではなかった。実際、余震が度重なった折、全員を駐車場に一時避難させたこともあった。

それでも仕事は続けねばならない。でも、どこで……?丸野は考えた挙げ句、建物に隣接するガレージに眼をつけた。吹きさらしの屋外だが、幸い屋根だけはある。よし、あそこを「仮設営業所」にしよう。そう決意した丸野は18日、電話や端末など最低限必要な機材だけを移動させ、ガレージの周囲は防水シートで覆わせた。

さすがに夜は辛かった。寒さのあまり、仮眠もままならない。所員たちは身を寄せ合い、寒さと疲労を堪え忍んだ。それでも家族を亡くしたり、家を無くして避難しているお客さまのことを思えば、屋外とはいえ屋根はある、焚き火で暖をとることもできる。それだけでも感謝せねばならない、と自らに言い聞かせながら、丸野は所員たちを激励し続けた。

1月20日。三宮営業所では、3日目の「屋外営業」が始まった。

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2.最前線基地の苦悩

三宮営業所 屋外でのお客さま窓口

営業所お客さまセンターは、電気の使用申し込みや工事依頼の受け付け、料金徴収などを担当する「お客さま最前線基地」。震災の際にはまさに矢面に立って、殺到する問い合わせ対応に追われた。

それでも地震直後は、電話もさほど多くはなかった。特に兵庫営業所(長田区、兵庫区、須磨区を担当)では、自宅から電話をしてくるお客さまはほとんどいなかった。神戸市のなかでも被害が大きく、どこもかしこも停電しているからだろう、とお客さまセンター主任の上田健治は思った。

状況が一変したのは19日頃。一部マスコミが「電力は今日、明日にも復旧」と報道したのを受け、電話が一気に急増した。「隣は電気がついているのに……」「ウチはいつになったらつくのか」。引きも切らない問い合わせが殺到し、お客さまセンターはパニック状態に陥った。

避難所から「ウチはついていますか」と問い合わせてくるお客さまも多かった。しかし二次災害を防ぐため、不在宅への送電は保留していたし、状況を確認してからでないと確実なことは何一つ言えない。普段なら「○月○日の○○時頃に伺います」と約束できるのに、それすら答えることもできなかった。長田区などには工事車両も通行できない状態の場所が多く、作業の目途が立たなかったからだ。

「一週間後でもいいから来てほしい」。そう訴えるお客さまにさえ明快な答えができなかったことが、上田には何よりも辛かった。

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3.不眠不休の電話対応

三宮営業所 お客さまセンター

三宮営業所お客さまセンターの大橋康弘主任も、同じ悩みをかかえていた。

「送電のお申し込みは伝票にして技術課に回したが、いつ行ってくれるのか我々にも分からなかった。普段なら電話をいただいてから20~30分で行ける。けれども今回は申し込み件数があまりに多く、被害程度も様々。はっきりとした予定は立てようがなかった。すぐに来てもらえると思っているお客さまに、お断りを入れるのが心苦しかった」

電話対応は15人の所員が5人ずつ交替で、24時間体制で行った。まさに不眠不休の寝ずの番。しかも場所は吹きさらしのガレージだ。まるで戦場で野営しているようだ、と大橋は思った。そんななか、普段は頼りなく見えることもあった若手所員が、とても頑張っていることに気づいた。若い力が、ひどく頼もしく感じられた。

事務所を仮移転したこともあって、普段10本ある電話は5本に絞り込まれた。その5本の電話に、1日2000件もの電話がかかる。電話がなかなか通じないため、来社するお客さまも増えてきた。

しびれを切らして駆けつけた人々は、寒空の下、傾いたビルの脇で働く大橋たちの姿を見て、「しゃあないなぁ」と納得してくれた。「頑張ってや!」と逆に励まされることもあった。ビルが傾いていたから同情してくださったのかもしれないな。そう思いつつ、大橋は嬉しくなった。

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4.いち早く「特別措置」を

復旧作業を全力で進める

復旧作業と並行して、関西電力は地震発生直後から、料金面での特別措置を講じ始めた。

関西電力ではこれまでにも、台風や大雨などによる災害の際に、いくつかの特別措置を実施していた。しかし今回の震災は、これら従来のケースとは規模も範囲も比較にならず、特別措置の内容も従来とはかなり違ったものになった。

具体的には、災害救助法の適用を受けた地域(神戸市、尼崎市など当初15市町)と、その周辺地域で申し出のあったお客さまに対し、

  • 1.電気料金の支払い期限を最大4カ月繰り延べる

  • 2.基本料金を一部免除、また電気を全く使用していない場合には基本料金を全額免除する(通常は未使用の場合にも、「不使用月料金」として基本料金の半額が徴収される)

  • 3.引込線、電力メーターなどの新設工事を無料で実施する

などの特別措置を決定。18日、通商産業大臣に申請し、翌19日に認可を得た(20日記者発表)。

その後、災害救助法適用地域がさらに拡大されたのを受け、特別措置の適用範囲もこれに合わせて拡大。また特別措置は従来、申し出のあったお客さまのみとするのが慣例だったが、今回は被害の大きさも考慮し、救助法適用地域に一律で適用した。

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5.温かさが通い合う

一日も早く、お客さまに電気を使っていただきたい──。電気温水器などの販売促進を担当するお客さま提案部門も、その思いに変わりはなかった。

震災発生直後の17日午前中から、お客さま提案部門には、電気温水器の転倒、配管破損などに関する問い合わせや修理依頼の電話が相次いだ。

関西電力では深夜電力利用による負荷率改善をめざして、かねてより電気温水器の推奨活動を進めているが、機器の販売や据え付け工事は、製造メーカーや工務店の担当である。けれどもお客さま提案では、「早く温かいお湯を使っていただきたい」と、積極的なサービスに努めた。

まずは問い合わせ内容の集約を行い、メーカーやアフターサービス店に総動員体制を依頼した。修理に必要な部材の調達も行った。直接お客さま宅へ出向き、自ら応急措置にあたることもあった。さらにはテレビCMを利用して連絡先の告知を行ったほか、電気温水器をお使いのお客さまを探しだし、はがきで使用状況を問い合わせる「ローラー作戦」も実施。郵送したはがきの枚数は、全社で約6万枚にも上った。

やがてお客さま提案に、何枚ものはがきが舞い込んだ。「水道が出るまで、電気を切り何回も温水器から出して使った大切なお湯で、心まであたたかくなりました」「ガスが復旧するまでの二週間、我が家でできるボランティア活動として、ご近所の皆様に入浴していただきました」。お客さまからの感謝状にも、温かさが溢れていた。

20日午後6時時点で、停電軒数は約8万軒に減少した。

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第五日:4700人の力を集めて