第三日 「重点作戦」を展開せよ

  • 1.応急送電、本格化
  • 2.「重点作戦」10カ条
  • 3.安全の心得
  • 4.二次災害を防ぐために
  • 5.使命感に燃えて

1月19日 停電軒数/約21万軒

1.応急送電、本格化

地震発生から3日目を迎えた1月19日。被災地では依然断続的に余震が続き、街はいまだ落ち着きを取り戻してはいない。そんななか関西電力の各営業所では、この日も早朝から多くの作業員が復旧現場へと向かっていった。

前日までに重点箇所(病院、避難所など)への緊急送電をほぼ終えた関西電力は、「5日以内」と目標設定した応急送電完了に向け、いよいよ作業を本格化。午前6時現在、現場復旧にあたった作業員は、協力会社や他電力会社の応援部隊を含め3,136人に上った。

人手はいくらあっても多過ぎることはない。とはいえ、これほど多数の作業員を抱え、その一人一人にまで復旧方針や作業内容を徹底させるのは、通常時の指揮命令系統では困難だった。そこで関西電力では、各営業所管内の被害エリアを、適切に管理統括できる規模にブロック化(例えば三宮営業所管内は6ブロックに分割)。被害の少なかった他地域の営業所課長を各ブロックの責任者に据え、それぞれ独立した現地指揮系統のもと、責任復旧する体制をしいた。

情報連絡体制にも工夫を凝らした。当初現場と営業所間や現場同士の情報連絡には、多数の無線車両を投入したが、通信回線の度重なる集中により、思うように機能しないため、臨時の無線基地局を設け、こちらもブロック化。使用周波数帯を変えることにより、無線連絡を容易にした。さらに初日は現場からの情報が上手く機能せず、作業にも支障を来した反省から、2日目以降は各作業班に携帯電話も支給した。

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2.「重点作戦」10カ条

被害の大きい地域の切り離しによる健全地域の早期送電

こうした新たな体制づくりは、関西電力が応急送電実施にあたって掲げた、10カ条からなる重点作戦に基づくものだった。

  • その1安全徹底作戦。設備安全、作業安全、電気安全を現場末端まで徹底して行う。

  • その2じゃまもの切り捨て作戦。損壊・損傷設備を切り離し、健全設備での早期送電を行う。

  • その3一筆作戦。健全な高・低圧線、引込線を使って仮供給体制を構築する。

  • その4無停電機材のフル活用作戦。仮供給系統を構築するに際して、発電機車、バイパスケーブル、変圧器車などの無停電機材をフル活用する。

  • その5One Step作戦。外線班と内線班がペアになり、外内線同時に被害箇所を仮復旧する。

  • その6ローラー作戦。引込線復旧と並行して、屋内配線の保安措置や小工事処理を実施し、停電地域を一掃していく。

  • その7早期実態把握作戦。早期に被害箇所の全域実態調査を行い、復旧作戦に反映させる。

  • その8ブロック作戦。被害エリアを適正規模にブロック分割し、責任復旧する。

  • その9兵站(へいたん)作戦。現地復旧部隊を支援するための兵站活動を展開する。

  • その10広報作戦。報道機関を通じ、適切なタイミングで、お客さまに復旧状況や注意喚起事項などをお知らせする。

現場での作業方法から後方支援、広報活動まで──。「応急送電重点作戦」は、関西電力がまさに全社を挙げた大作戦だった。

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3.安全の心得

高所作業車が活躍

10カ条のなかでも特に現場が腐心したのは、徹底した安全管理によって二次災害を防ぐことだった。

約20万戸にも及んだ被害家屋、至るところで倒壊・寸断した電柱電線。今回の震災被害は、これまでの災害復旧作業で現場が培った経験や常識をはるかに超えるものだった。このため関西電力では、

  • 休憩、休息、睡眠を十分とること

  • 指揮命令系統を明確にして作業を進めること

  • 原則として停電作業とすること(平常時の保守作業は、近年では無停電作業が一般的)

などといった「安全の心得」を全現場に通達。さらに被害の大きい地域での作業については、

・コンクリート柱は強度低下の恐れがあるため、できる限り高所作業車を利用すること
・変形した変圧器は取り替えること。また変形していなくても高温のものは蓋を開けず、取り替えること
・火災の影響を受けた真空開閉器は、機能低下の恐れがあるため取り扱わないこと

など、より具体的な指示を送って万全を期した。

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4.二次災害を防ぐために

安全確保のため、やむを得ず送電を保留したケースもあった。

関西電力が送電を保留したのは、倒壊などにより居住できなくなった家屋・店舗や、電力メーターが絶縁抵抗不良になるなど、設備機器に支障がある場合。これらのケースでは、高圧分岐線や引込線、電力メーター配線などを切断し、二次災害の防止を図った。

また屋内配線や家電設備が損傷している場合は、感電・漏電の恐れもあるため、不在宅への送電も一時保留。送電の際には、居住者立ち会いのもと十分な保安措置を講じたうえ、絶縁抵抗測定などにより個別に安全を確認した後、送電を行った。

それでも一部で送電が開始されると、近隣の人々が次々と作業部隊のもとを訪れ、「ウチにも電気をつけてほしい」と切実な表情で作業員に訴えた。兵庫営業所の下谷正吾作業長もそんなお客さまの訴えを何度か、心苦しい思いで聞いた。

「電気をお届けしたいのは山々だったが、でも我々の眼からすれば『送ったら危ない』と思うこともしばしば。お客さまの気持ちが分かるだけに、対応に苦労した」

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5.使命感に燃えて

電柱の仮復旧

設備の仮復旧は少しずつ、けれども着実に進んだ。

被災地全域で、修理が必要となった電柱は約8000本。その1本ずつの被害状況が確認され、使用不能なものは撤去。使用に耐えるものは、できる限り簡易な工法で仮復旧された。

復旧作業の迅速化を図るため、機動車も多数投入された。特に今回の震災では、電柱など支持物の被害が大きかったことから、高所作業車や穴堀建柱車がフル活用され、現場作業を大いに助けた。

大火災によって、一面焼け野原となった地域でも作業が始まった。兵庫営業所の山下栄三も、翌20日には担当地区である兵庫区に戻った。

作業中、「そこにはまだ人が埋まっとるんや」と声をかけられ、胸を詰まらせたことが度々あった。涙が止まらなくなってしまったことも、一度や二度ではなかった。「被災者に代われるものなら代わりたい」。そんな思いも抱いた。「それでも自分には電気を送ることしかできない。だから電気を送ることに精一杯努めよう」。そう思い至って、ようやく救われた気持ちになった。

「早くなんとかしてえな」と催促するお客さまもいたが、配電線がやられていては手の打ちようがない。「ごめんな、ごめんな」と頭を下げて詫び続けた。

それでも苦情を言われるより、感謝されることの方が多かった。大変な食料事情にもかかわらず、「このおにぎり、食べえな」「飯でも食っていけ」と、あたたかい言葉をかけてくれる人もいた。そんなお客さまの気遣いと期待が、何よりのエネルギーになった。

19日午後7時現在、停電軒数約12万軒。

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第三日:「重点作戦」を展開せよ